本当に説教をしたかった相手は
「中山。今日は、ずっと小早の所だったのか?」
部屋の隅で、書類を片付けていたらしい桜木が顔を上げた。
「ああ。……今日やっと小早が食事をしてくれたんだ。」
俺はベッドの縁に腰を下ろし、今日病室で見た光景を、言葉を選びながら伝えた。
話を聞き終えた桜木は、自嘲気味な笑みを浮かべ、力なく首を振った。
「……ははっ、不甲斐ねぇな。生徒を教えているつもりでいて、実際は教えられてばかりだ。俺たちは」
桜木は窓の外、夜の闇に沈む立川の街を見つめた。その瞳には、あの日救えなかった多くの命の灯火が、今も消えずに焼き付いているようだった。
「生きろだの、無茶をするなだの……偉そうに説教を垂れているが、本当に説教したかった相手は、生徒じゃなくて自分自身なんだろうな」
そう言って悲しそうに笑う桜木の横顔が、あまりにも痛々しくて見ていられなかった。
かつて同じ班で育ち、戦い、生き残り、教え子を守り抜くと誓い合ったはずの俺たち。なのに、教え子達が死んでしまい、挙句の果てに「生きていていいんだ」と、ボロボロになったあいつの姿に救われている。
「……全くだな。情けなくて、涙も出ねぇよ」
俺は深く溜息をつき、目を閉じた。
小早が命懸けで戻ってきてくれた。その事実だけが、今の俺たちが「教官」として、そして「生き残り」として立っていられる唯一の細い糸だった。
暗い部屋に、俺たちの浅い呼吸音と、癒えることのない罪悪感だけが季節外れの雪のように静かに降り積もっていった。




