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完全復帰

「——来るぞ! 上空、二時の方角から群れが急降下してくる!」

中山教官の鋭い声が、骨伝導イヤホンを通して脳を揺らした。

反射的に視線を上空へ向けると、雲の切れ間から鈍い金属光沢を放つ小型の変異種群が姿を現す。一瞬の旋回で空気を切り裂き、目視すら困難なほどのスピードで、弾丸のように一直線に急降下してくる。

「速ぇのが自慢かよ!」

地上で待ち構えていた桜木教官の一撃が空間ごと爆ぜ、先頭集団を力づくで叩き潰した。さらにその間髪入れず、関が疾風のごとき連続攻撃を繰り出し、弾き飛んだ敵を片端から切り裂いていく。

前衛の二人——桜木教官と関は、純粋なアタッカーだ。自分の背後を守るような器用な真似はせず、圧倒的な火力と手数を叩き込んで正面の敵を磨り潰す。

だからこそ、その激しい攻防の死角をすり抜けた数体超高速の変異種が、ターゲットを空中わたしへと切り替えた。

——見えている

私は焦らない。九州での凄絶な激闘、幾度となく死線の底を潜り抜けてきた経験は伊達じゃない。

耳元を掠める暴力的な風切り音が、一瞬だけあの日胸を穿たれた記憶をかすめさせたが、身体はすでに最適解を選んで動いていた。

神力の出力をミリ単位で微調整し、空中で鋭いS字旋回を描いて交差をかわす。

それと同時に、手のひらを敵群へ向けた。

右手に残るわずかな痺れも、後遺症の影すらも微塵も感じさせない。研ぎ澄まされた精度で、体内の神力を手のひらへ一気に集束させる。

「——ッ!」

放たれた高密度の青白い神力弾が空気を集約して炸裂し、迫り来る敵の核を正確に穿つ。爆風が空中で跳ね、敵が黒い煙となって霧散した。

ミスも、無駄な動揺もない。自力で危険を察知し、最適の軌道で撃ち落とす。守られるだけの存在じゃない、私はもう完全に戦場へ戻ってきたんだ。

だが——敵の核を撃ち抜いたその瞬間。

弾け飛ぶ破片の陰から、さらに異常な速度を持った「変異種の変種」が景色に溶け込むように現れ、私の真上から無音で急降下を仕掛けてきた。

なっ……後続の陰に隠れて……!?

反射的に空中制動をかけるが、敵は私が逃げる回避先すら完璧に予測して必殺の軌道を重ねてくる。

制動が間に合わない——そう悟ったコンマ数秒前。

——ズドンッ!!

澄んだ重厚な砲撃音が、私の鼓膜を突いた。

頭上すれすれまで迫っていた敵の頭部が、寸分の狂いもなく撃ち抜かれ、空中で粉々に砕け散る。

「前衛の漏らしたゴミは、俺が片付ける。集中しろ、小早」

地上から一歩も動かず、大型ライフルを構えた中山教官の静かな声がイヤホンから流れてきた。

私の動きと経験値を完全に信頼しているからこそ、自力では防ぎきれない「予期せぬ死角」だけを寸分違わず打ち払ってくれる。これぞ、中山隊の絶対的な司令塔のカバーだった。

「……っ、ありがとうございます、中山教官!」

呼吸を整え、体勢を立て直す。もう何の不安も躊躇いもない。

私は両手を広げ、迷いなく限界まで神力を開放した。

指先から幾つもの神力弾を、乱打するように解き放つ。まるで意思を持つ誘導ミサイルのように描線を描く光の弾丸群が、空中を高速で駆け巡る変異種を次々と捉え、連続で大輪の光の花を咲かせていった。

「——これで、終わりです!」

両手を合わせ、練り上げた最大の神力砲をぶちまける。空を埋め尽くしていた最後の群れが光に呑み込まれ、完全に霧散した。

静寂が戻る。

敵の猛攻は、中山隊の陣形を掠めることすらできず完全全滅。

私を含め、誰一人として擦り傷ひとつ負っていない完璧な「完全勝利」だった。

ゆっくりと地上へ降り立つと、関と桜木教官、そして中山教官が歩み寄ってきた。

「ふん、手応えのないやつらだったな」

桜木教官が鼻で笑い、関は「……ナイスショットでした、小早」と、どこか誇らしげに言った。

私は汗を拭い、晴れやかな笑顔で中山教官に向き直る。

「中山教官、カバーありがとうございました!」

「なに、お前が冷静に対処していたから、俺も狙いを定めやすかった。……見事な復帰戦だ、小早」

頭にぽんと置かれた中山教官の大きな手の温もりに、私は誇らしく胸を張った。

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