小早の復帰戦
——ウゥゥゥゥン、ウゥゥゥゥン。
基地内に鳴り響く甲高い緊急サイレンが、静まり返っていた廊下の空気を一変させた。
「敵影確認! 小型および中型の変異種群! 規模は小〜中規模ですが、移動速度が異常です! 街への侵入まで、あと1時間を切ります!」
スピーカーから流れるオペレーターの焦迫した声を聞きながら、俺はすでにロッカールームで装甲を身につけ始めていた。
「ちっ、急な仕事だな……!」
後から入ってきた中山教官と桜木教官が、手慣れた動作で着替えている。教官たちの顔つきは一瞬で「戦士」のそれへと切り替わっていた。
飛行型の高速移動種……!
神力を多くは持たない民兵では、空を自在に駆け巡り、高速で襲いかかってくる敵に追いつくことすらできない。空中戦は膨大な神力を消費するため、神力の器(箱)が大きい選りすぐりの神力使いでなければまともに対応できないのだ。
だからこそ、神力量も実力もトップクラスである俺たち中山隊に、最優先で急遽出撃要請がかかった。
「関、今日の小早の様子はどうだ?」
中山教官が装着ベルトを締めながら、短く訊いてくる。
「……準備は完了しています。リハビリも終えて数値上は完璧ですが……」
言葉を詰まらせた俺の胸中を、教官たちは全て見抜いているようだった。
いくら空を飛べるまでに回復したとはいえ、実戦の、しかも一瞬の判断ミスが命取りになる高速戦だ。心配にならないわけがない。
「関。」
桜木教官が、俺の肩を大きな手でどんと叩いた
「お前がブレてどうする。小早を信じろ。小早は俺の目から見てももう復帰出来る。大丈夫だ。」
「……っ、はい!」
腹の底に重い覚悟が据わり、震えが止まる。
出撃ゲートへ向かうと、そこにはすでに装備を整えた小早が立っていた。
「……関」
俺の足音に気づいて振り返った小早の表情には、一瞬だけ緊張の色が走っていたが、俺と目が合うと、すっと瞳の奧に不屈の光が宿った。
「大丈夫。私、ちゃんと飛べるよ」
あの日途絶えかけた命を繋ぎ止め、血の滲むような努力で取り戻した、自由な風。その誇りを胸に宿した、強くて美しい目だった。
「……ああ。知ってる」
俺は小早に歩み寄り、胸の前で拳を軽く突き出した。
「前だけ見て跳べ、小早。お前の背中は、俺が命に代えても守る」
「うん……! 行こう!」
小早がその拳に自分の拳をカチンとぶつけ返した瞬間、ゲートが開かれた。
一陣の風が巻き起こり、小早の身体が青空へと向かって一気に跳ね上がる。その後に続くように、俺たちもまた、侵攻してくる高速の脅威を迎え撃つべく、戦場へと飛び出した。




