王子小早復活
青く澄み渡る秋晴れの空。
1時間の休憩時間のうち、30分ほどの体を休める時間を終えた私は、吸い寄せられるように屋上へと向かっていた。
リハビリ訓練の日は厳しかった。
全身を刺され、左半身の感覚も神経も一度は死にかけた体。
「頭で理解しているだけでは足元をすくわれるぞ」と、背中から厳しくも温かい手で支え続けてくれた桜木教官の指導。そして「何年だって隣にいる」と泣きながら手を握り締めてくれた関の存在。
その全てを糧にして血の滲むような努力を重ねてきた身体は、いま、驚くほど軽かった。
「……いける」
小さく呟き、地面を蹴る。
次の瞬間、背中から溢れ出す神力が澄んだ空気を押し弾き、私の身体は一直線に上空へと跳ね上がった。
「〜〜〜っ……!!」
風が、顔を、全身を叩く。
刺される前の、あの伸びやかで自由だった感覚が、完璧に手の中に戻ってきていた。
ぐんと高度を上げ、青空の真っ只中へ突き抜ける。
神力の出力を左右均等に微調整しながら、右へ左へと急旋回を描く。上から下へ急降下し、地上スレスレで風を抱くように再び上昇する。遅く、速く、縦横無尽に空を駆け巡る感覚が、たまらなく心地よかった。
胸の奥から湧き上がるのは、純粋な「飛ぶ喜び」だ。
あはは……すごい! ちゃんと飛べてる……! 私の体、動いてる……!
風を切る音が耳元で歌うように響く。
陽光をいっぱいに浴びながら空中でくるりと一回転すると、眩しい光が体をやさしく包み込んだ。
ふと、旋回しながら仰ぎ見た雲の向こうに、懐かしい面影が浮かぶ。
士官学校の放課後、余った神力を使ってみんなで空を飛び回ったこと。
神力を全開にして追いかけっこをして、笑い転げたあの日々。
安宅くんや、同じ班で笑い合っていた仲間たちの顔。
「中山班は勇敢な人が多い」と、教官たちがどこか誇らしげに自慢していたあの仲間たちは、あの日、前線で後輩達を守るようにして散っていった。
今こうして空を飛びながら思い浮かべることでしか、もう一緒にいられない。
どれだけ手を伸ばしても、二度と一緒にこの風を追うことはできない。
どれだけ時間が経っても、あの日々の愛おしさも、喪失の寂しさも、終わりにすることなんてできない。したくもなかった。
だけど——暗闇の中で泣いていたあの頃の私とは違っていた。
あたたかな光が、私の全身を照らしている。
背中を押す追い風は、まるで「お前は飛べ、生きろ」と、安宅たちが後ろから押し上げてくれているかのように温かかった。
「……大好き」
溢れる想いをそっと空に残し、小早は優しく風に乗って、地上へと舞い降りた。
トッと軽やかに着地した足元には、もう何の迷いも、恐怖の引きつりもなかった。




