翌朝
お祝いの翌朝。
超高級ホテルでの特別な夜を終え、基地の宿舎で目を覚ました俺は、日課のコーヒーを淹れながらスマートフォンを立ち上げた。
画面を開いた瞬間、SNSのトレンドワードが目に飛び込んできた。
『#立川高級ホテル』『#中山隊』『#お姫様抱っこ』『#スーツ姿のイケメン』
「……やっぱりか」
俺は思わず吹き出した。
ネット上の掲示板やSNSは、昨夜の俺たちの目撃情報と写真で大盛り上がりしていた。
『昨日立川の某ホテルで中山隊見た!!全員スーツとドレスでバチバチに決めててヤバかった』
『桜木中佐のスーツ姿、モデルかよってレベルでスタイル良すぎ』
『関中尉のオーダースーツ姿がイケメンすぎて死んだ。しかもドレスの女の子(小早ちゃん?)をお姫様抱っこして出てきたぞ!?』
『小早ちゃんお酒弱かったのかな?顔真っ赤にして抱っこされてて可愛すぎたwww』
『リアル王子様とヒロインかよ……末永く爆発しろ』
普段は戦闘服か軍服姿しか見せない俺たちが、極上のスーツとミッドナイトブルーのドレスでバチバチに決めていたのだ。話題にならないわけがない。
「どれどれ……」
画面をスクロールする手が、思わず止まる。昨夜の立川の超高級ホテルでの騒ぎは、落ち着くどころかさらに加速してトレンドのトップを独占していた。
『昨夜の立川のホテル、関中尉が小早ちゃんをお姫様抱っこして出てきたの生で見ちゃった……! マジでリアル王子様すぎた』
『小早ちゃん、慣れないお酒で撃沈したのかな? 顔真っ赤にして関中尉の首元にすっぽり埋まってて可愛すぎたんだがww』
『スーツ姿の関中尉、いつもとギャップありすぎて心臓止まるかと思った。スタイル良すぎ』
SNSのタイムラインは、もはやお祭り騒ぎだ。
『ていうか関中尉と王子中尉、さすがにもう付き合ってるんだよね!? はい結婚!! はよ結婚しろ!!』
『第二次九州北部大侵攻のあの大功労者カップルでしょ? 尊すぎて無理』
『この2人が将来結婚して子供生まれたら、絶対に規格外の優秀な神力使いになるよね……血統が強すぎる』
『遺伝子レベルで未来の第一線確定じゃんwww』
「ははっ……みんな好き勝手言ってくれるなぁ」
『はよ結婚しろ』だの『絶対優秀な神力使いになる』だの、画面を埋め尽くす書き込みを見ながら、俺は一人で声を上げて笑ってしまった。
神力の器(箱)の大きさが軍でもトップクラスで、規格外の戦闘を見せる小早。そして、士官学校を首席で卒業し、頼もしい前衛として覚醒した天才肌の関。そんな2人が結ばれたらどうなるか、世間の特撮ファンやミリタリー好きが妄想して盛り上がる気持ちも、分からなくはない。
まあ……優秀な神力使いになるかは知らんが、間違いなく顔立ちが整った、ちょっと頑固で可愛い子が生まれるんだろうな。
想像してしまい、思わず自分自身の親バカぶりに苦笑する。
かつては絶望の底にいて、一時は命を繋ぐことすら危うかった子どもたちだ。
俺と桜木は祈るような思いで守り続けていた。失った子達の面影を抱きながら、もう誰も失いたくない一心で手繰り寄せてきた未来が、今、ここにある。
ネットの住人たちが「尊い」だの「早く結婚しろ」だのともてはやす今の平和な空気すら、俺たちが血を流して守り抜いてきた証なのだと思うと、なんだか無性に愛おしくなってくる。
そこへ、宿舎の共用リビングに小早がやってきた。
昨夜のドレス姿からいつもの日常着に戻っているが、その顔は茹で上がったタコのように真っ赤だ。スマートフォンを握りしめ、煙が出そうな勢いで立ち尽くしている。
「……な、中山教官……! ネットのこれ、なんですか……っ!?」
「おう小早、おはよう。見たか? お前ら、すっかりネットの有名人だぞ」
俺がニヤニヤしながら画面を見せると、小早は「うぐっ……!」と声を詰まらせ、頭を抱えた。
「私、歩いて帰れたのに……! 関のバカ! なんで抱っこなんてしたの……っ!」
恋人同士である前に同期だからこそ容赦のない、素の「関」呼びでぷんぷんと怒る小早。
そこへ、ちょうど部屋から出てきた関が、何事かと首をひねりながら近づいてきた。ビシッとセットしていた昨夜の髪はいつもの寝癖混じりに戻っているが、顔色一つ変えずに平然と言い放つ。
「いや、危なかっただろ? 慣れないヒール履いて、お酒一口で完全にフラフラだったし。転んで怪我でもしたらどうするんだ」
「フラフラじゃないもん! ちょっと眠かっただけだもん! 恥ずかしすぎて私、もう街歩けないよ……!」
真っ赤になって関の胸元をポカポカと叩く小早と、「でも怪我するよりマシだ」と至って大真面目に反論する関。
その不器用すぎる押し問答がおかしくて、俺はついに耐えきれず爆笑した。
「はははは! いいじゃないか小早! 王子様とお姫様みたいで、ネットでも『お似合いすぎる』って大絶賛だぞ!」
「教官まで面白がらないでください〜〜っ!!」
「まあ、実際フラフラだったしな」
奥から腕を組んで現れた桜木もあきれ顔を装いつつ、口元を隠しきれない笑みで緩ませていた。
「お前が『一生忘れない』って泣きながら関に抱きついたのは紛れもない事実だ。腹をくくれ」
「桜木教官まで……っ! うぅ……もうお酒なんて絶対に飲みません……!」
顔を真っ赤にしてソファーに突っ伏す小早と、そんな彼女の頭を少し困惑しながらも優しく撫でる関。
かつては絶望の淵にいて、命を繋ぐことすら危うかった子どもたちが。
過去の傷や痛みを胸に抱きながらも、こうして平和な朝にくだらないことで照れ合い、笑い合っている。
「よし! ネットの有名人さんたち、朝飯にしようか。今日は特別に俺の特製フレンチトーストにしてやる!」
「……食べます」
「俺もいただきます」
教官として、そして親のような眼差しでその背中を見つめながら、俺は朝の光が差し込むリビングで、最高に愛おしい「家族」の笑い声に耳を傾けていた。




