強制連行
レディースブティックで無事に小早のドレスを買い終え、大人のプライド(と財布)の面目を保った俺は、ホッと胸を撫で下ろしていた。
「さて、次は関のスーツだな」
俺がそう言ってブティックを出ようとすると、後ろをついてきていた関が、心底嫌そうな、そして心の底から不思議そうな顔をして首をひねった。
「え……? いや、俺は本当に軍服でいいです。なんでスーツなんて買わなきゃいけないんですか」
「は?」
思わず足が止まった。
俺は関の無骨な横顔を二度見した。いやいや、待て。小早の20歳のお祝いに合わせて、4人でドレスアップして出かけようって話だぞ?小早があんなに綺麗なミッドナイトブルーのドレスを着るのに、隣を歩く男がコチコチの礼装の軍服じゃ、いつも通りすぎるだろう。せっかくの華やかな雰囲気がぶち壊しだ。
というか、待てよ……?
嫌な予感が脳裏をよぎり、俺の背中に冷や汗が流れた。
「……関。もしかしてお前も成人式も軍服で行ったのか……?」
焦りを隠せずに尋ねると、関は「えっ」と一瞬固まり、きょとんとした顔で俺を見返してきた。
「はい。……まずかったですか?」
「いや……まずくはない! 違法でもなんでもないが……!」
思わず声が裏返りそうになるのを必死で抑える。
「問題はないがな……普段仕事で嫌ってほど軍服を着てるんだ。一生に一度の成人式くらい、普通のスーツを着てオシャレするとか、そういう発想はなかったのか!?」
俺の熱弁に対し、関は至って平然とした顔で、さも当たり前のようにこうのたまった。
「いやぁ……俺の地元、軍人多いですし。成人式も軍服のヤツかなり多かったですよ?」
「……ッ」
俺はガバッと片手で額を押さえ、その場に突っ伏しそうになるのを耐えた。頭が痛い。知恵熱が出そうなのは関じゃなくて俺の方だ。
軍人一家や軍人の多い地域あるあるかもしれないが、それをこの大事な私服のおでかけにまで持ち込まれては困る。士官学校を優秀な成績で出ているくせに、こういう世間一般の「感覚」が壊滅的に抜けているのだ、この男は。
頭を抱えて唸っている俺の横から、ずいっと影が差し込んできた。
腕を組み、般若のような恐ろしい顔をした桜木だ。
「……関」
桜木の低く重い声が響く。関が「ヒッ」と背筋を伸ばして直立不動になった。
「お前ももう立派な大人だ。社会人として、まともなスーツの1着くらい持っとくのが常識だ。……行くぞ」
「え、あ、教官……!?」
逃げ出そうとする関の首根っこを、桜木が容赦なく鷲掴みにした。そのまま引きずられるようにして、メンズ服のフロアへと強制的にお連行されていく関。
「中山教官! 助けてください! 俺、本当に服なんてどれでも……!」
「諦めろ関。上官の命令だ」
助けを求める関に、俺は笑顔で手を振ってやった。
まあ、なんだかんだ言っても桜木も関のことが可愛くて仕方ないんだ。きっと小早のドレスに釣り合うような、とびきり格好いいスーツを選んでやるつもりに違いない。
「小早、俺たちはあいつらが揉めてる間に、ちょっとお茶でもして待ってようか」
「ふふ、はい! 関、どんなスーツになるか楽しみですね」
引きずられていく哀愁漂う関の背中を見送りながら、俺は「やれやれ」と苦笑いしつつ、不器用な教え子たちの新しい門出の準備を楽しんでいた。




