小早へ贈る20歳のプレゼント
カードケースから、使い古したクレジットカードを取り出し、スマートに支払いを済ませる。店員が慣れた手つきで機械に通すのを横目で見ながら、俺は胸の内で小さな達成感に浸っていた。
「……よし、会計はこれで終わりだ」
「えっ!? 中山教官!! これ、私の服なので自分で払います!!」
案の定、試着室から出てきたばかりの小早が、目を丸くしてパニックを起こしたように声を張り上げた 。右手の指先を少しこわばらせながら、慌てて自分の財布を取り出そうとバッグをガサゴソと漁っている。
そんな小早の慌てぶりを見て、俺は思わず口元を緩めた。
「お祝いだ。20歳、おめでとう小早」
そう言って笑いかけると、小早は手にしていた財布を抱えたまま、言葉を詰まらせて固まった。
「でも……こんな高級なドレス、教官に買ってもらうなんて……! 私、もう子供じゃないですし、自分のお給料だって……」
「いいんだよ。俺たち教官……いや、親みたいなもんからの、ささやかなお祝いだ」
何度も死線を彷徨い、一時は自分を責めて壊れかけていたこの娘が、こうして自分の意志で『スノードロップ』の咲くミッドナイトブルーのドレスを選び、笑ってくれた。過去の痛みの記憶も消えないけれど、それを胸に抱いて「4人で歩きたい」と言ってくれたんだ。
20歳という節目。命を繋ぎ止めて、ようやくここまで辿り着いたあいつへの贈り物として、これ以上に相応しい使い道なんて思いつかない。
「な? 桜木もそう思うだろ?」
俺が同意を求めると、隣で腕を組んでいた桜木が、ぶっきらぼうに
「そうだ。受け取っとけ。中山が払わなきゃ俺が払うつもりだったんだ。どっちにしろお前に支払わせる気なんざ、最初からねぇよ」 と答えた。
「桜木教官まで……」
二人の「大人」に挟まれ、小早は言葉を失って、胸元のスノードロップの刺繍をぎゅっと抱きしめるように手を置いた。その目にはうっすらと涙が浮かんでいるようにも見えたが、次の瞬間には、パッと花が咲くような笑顔に変わっていた。
「……ありがとうございます! 大切に、大切に着ます……!」
「おう。大事にしろよ」
ふと横を見ると、もう一人の若い男——関が、いまだに茹で上がったタコのように真っ赤な顔をして立ち尽くしていた。小早の笑顔とドレス姿の眩しさに完全に当てられて、思考回路が完全にショートしているらしい。
まったく……あいつは戦場じゃ首席卒業の度胸を見せるくせに、こういう時だけはからきしだな
頼もしい前衛に成長したはずの関が、小早の前でだけ見せるこの呆れるほどの初々しさ。安宅がここにいたら、きっと腹を抱えて「関、顔が赤いぞ!」なんてからかっていただろう。
「ほら、関。いつまでもポカンとしてないで、小早の荷物持ってやるくらい気の利いたことしたらどうだ?」
俺がそう突っ込むと、関は「ハッ!」と我に返り、「あ、はい! 俺が持ちます!」と慌てて紙袋を引き取った。
その不器用すぎるやり取りを見て、俺と桜木は顔を見合わせ、同時に吹き出した 。




