戸惑う男たちと慣れた男
立川にある、華やかな照明に照らされたレディースブティック。
迷彩服が日常の俺たちにとって、そこは最前線よりもある意味で緊張を強いられる場所だった。
「おい、いつまで入り口で固まってやがる。入るぞ」
ためらう俺と関を置いて、桜木が迷いのない足取りで店内に踏み込む。
あいつ、実は昔から姉貴に散々服選びに付き合わされていたらしく、こういう場所の空気に驚くほど慣れているのだ。 普段は元鬼教官と恐れられているくせに、女性物の棚を品定めする手つきには一切の無駄がない。
「えっ、あ、ちょ……教官、待ってください!」
慣れない空間に「えっと……?」と戸惑い、挙動不審になりながら桜木の後を追う関の姿は、まるで初めての戦場に放り出された新兵のようで、俺は思わず苦笑した。
「中山、お前もぼーっとすんな。……小早、こっちに来い」
桜木に呼ばれ、まだリハビリ用のプロテクターを巻いた左肩をかばうように小早が歩み寄る。 過酷な入院と訓練で、あいつの身体は以前にも増して華奢で、少し脆そうに見えた。
桜木は並んでいるドレスをいくつか手に取ると、親が我が子の晴れ着を選ぶような、どこか穏やかな顔で小早に当てていった。
「小早は、こういう黄色やオレンジみたいな明るい色が似合う。……病院の入院着(白ぽい服)や、軍服のカーキばっかり見てきたからな。たまにはこれくらい派手な方が、顔色が明るく見えるぞ」
「わぁ……綺麗。でも、私に本当にこんな明るい色が似合いますか……?」
小早が少し気恥ずかしそうに頬を染める。
確かに、桜木の言う通りだ。あいつが今まで身に纏ってきたのは、冷たい雨の中の血の色や、無機質な病室の色、そして戦場の泥の色ばかりだった。 二十歳の門出くらい、太陽のような色を纏わせてやりたい。
「……小早。桜木のセンスは確かだ。お前は、もっと欲張っていいんだぞ」
俺が後ろから声をかけると、小早は嬉しそうに、けれどまだ少し不安そうにオレンジ色のドレスを手に取った。
その横で、関は「オレンジ……。いや、あっちの青も……いやでも……」と、棚の前でフリーズしている。桜木のスピードについていけず、完全にキャパオーバーを起こしているらしい。
「関、お前は黙って俺が選ぶのを手伝ってろ。……いいか、次はこれだ。小早、これは左肩の傷が隠れるデザインだ。試着してみろ」
桜木がぶっきらぼうに手渡したのは、首元が少し高くなった、けれど明るい発色のボタニカル柄のワンピースだった。 自分の傷を人目に晒す勇気はないだろうという、桜木なりの配慮なのだろう。
「ありがとうございます……! 行ってきます!」
小早がドレスを抱えて試着室へ消えていく。
俺は、その背中を頼もしく、そして少しだけ切ない気持ちで見送った。
本当は年相応に好きな服を着れれば良いのに。失われた時間は戻らないし、左肩の傷跡も消えはしない。
少し切なさを抱えたまま小早の着替えが終わるのを待っていた。




