20歳の同窓会
「……ダメだ。桜木、予定変更だ。このままじゃ当日、第一種軍装でホテルのロビーに直立不動するあいつらを見ることになる。……二人を連れて、服を買いに行くぞ」
俺が頭を抱えながら断言すると、隣で同じく絶望的な顔をしていた桜木が、深く、重いため息をついて頷いた。
「……了解です。……でも教官、軍人の第一礼装は軍服ですよね? なぜわざわざ別の服を……?」
関が本気で不可解そうな顔をして問いかけてくる。その隣で、小早もキョトンとした顔で首を傾げている。
「……いいから乗れ。これは命令だ」
俺は二人を半ば強引に車の後部座席に押し込み、立川の街へと車を走らせた。
バックミラー越しに見る二人は、まるで未知の戦地へ送り込まれる新兵のように緊張した面持ちで座っている。首席と次席の「逸材」たちが、ショッピングモールへ向かうだけでこれほど強張るとは、教官として教育方針を間違えたかと少しだけ後悔した。
ふと、以前の教え子が「成人式の後の同窓会は、みんなドレスやスーツで着飾って最高だった」と自慢げに話していたのを思い出した。
「……そういえば小早。お前、二十歳の成人式の後の同窓会とか、どうしたんだ? やっぱり女の子は、ああいう時ドレスとか着るんだろ?」
何気なく投げかけた問いに、小早は少しだけ視線を泳がせ、それから淡々と答えた。
「あ……。あの時期はまだ、襲撃の怪我のリハビリ中でしたから。……一応成人式は振袖で普通に参加しましたけど、成人式だけでかなりしんどかったので、同窓会は車椅子で参加しました。着替えるのも大変だったので、軍服の第1礼装で行きましたよ?」
「…………軍服で、か」
「あ……。私の地元は、自衛に携わっている友達も何人かいますけど、そこまで軍人が多いエリアではないんです。だから……」
小早は少し困ったように頬を掻いた。プロテクターで固定された左肩が、わずかに服の生地を押し上げている。
「同窓会で『今は立川基地にいる』って言ったら、男女問わず囲まれちゃって……。『立川基地なの!? かっこいい!』とか『エリートじゃん!』って、質問攻めに遭って大変でした」
「ははっ、そりゃそうだろうな。日本屈指の精鋭が集まる立川基地の、しかも中尉様だ。地元の奴らからすれば雲の上の存在だろうよ」
俺が笑って言うと、それまで黙っていた隣の桜木が、バックミラー越しに後部座席をちらりと見た。
そこには、あからさまに不機嫌そうな顔をして、窓の外を睨みつけている関の姿があった。
「……チッ」
関の口から、隠しきれない舌打ちが漏れる。あいつ、小早が地元の「男の子たち」に囲まれて「かっこいい」と持て囃されている光景を想像して、猛烈に嫉妬しているのが丸わかりだ。
「……関、どうした。神力が漏れてるぞ。車内を破壊する気か?」
桜木がぶっきらぼうに指摘すると、関は顔を真っ赤にして言い返した。
「……別に。……ただ、あいつらは何も分かってないなと思っただけです。小早がどれだけ無茶をして、どれだけ危ういところで飛んでいるかも知らないくせに、『かっこいい』なんて軽い言葉で……」
「関……?」
不思議そうに顔を覗き込む小早に、関はさらに顔を背けて、「……男も女も、距離が近すぎるんだよ。軍紀がなってない」と、的外れな小言をブツブツと呟き始めた。
……ははっ、関のやつ。士官学校を首席で出たプライドはどこへ行ったんだか
自分の実力では誰にも負けないくせに、小早の「地元の男友達」という未知の敵には、どう立ち向かっていいか分からず混乱しているらしい。
「いいじゃないか関。小早がそれだけ地元の誇りだってことだろ。……な、桜木」
「……ふんっ。人気者は辛いな、王子中尉」
桜木も呆れたように鼻を鳴らす。
戦場では無敵の「中山隊」が、地元の同窓会という平和な話題一つでこれほど掻き乱されるとは。
「ほら、着いたぞ。関、今日は『立川のエリート』らしい、最高に似合う服を小早に選んでやれ。地元の奴らに見せつけられるようにな」
俺が茶化すように言うと、関は「……言われなくても、そのつもりです!」と、今日一番の気合を入れて車を飛び出していった。
ショッピングモールの喧騒の中へ消えていく三人の背中を見送りながら、俺は少しだけ疼く古傷をさすり、親のような気持ちで小さく笑った。




