どれす、こーど?
立川基地の廊下で、リハビリを終えたばかりの小早と、それを支えていた関を呼び止めた。教え子たちの「二十歳の門出」を祝う準備は万端だ。
「いいか、二人とも。遅くなったが、お前たちの成人祝いにホテルのレストランを予約しようと思う。俺と桜木からの奢りだ」
俺が胸を張って告げると、関は「おぉ、飯ですか!」と目を輝かせ、小早も「ありがとうございます!」とはにかんだ。 だが、続く俺の言葉に、二人の動きがピタリと止まる。
「場所が場所だからな。一応ドレスコードがある店だ。そこだけ気をつけておけよ」
「……どれす、こーど?」
小早が、まるで未知の敵の暗号名でも聞いたかのように首を傾げた。その隣で、関も眉間にシワを寄せて真剣に考え込んでいる。
「……教官、それは新型の神力暗号か何かですか? それとも、式典用の軍装規定のことでしょうか」
「いや、関。……衣服の規定だ。フォーマルな服装で来いっていう、一般常識の……」
「なるほど! つまり、戦闘服ではなく、式典用の第一種軍装で集まれということですね! 了解しました!」
関がビシッと敬礼し、小早も「肩の固定器具が隠れるサイズを確認しておきます!」とやる気満々で応える。
「………………」
俺と桜木は、同時に顔を見合わせて深く天を仰いだ。
……しまった。こいつら、十代のほとんどを士官学校と戦場で過ごしすぎて、世間知らずの「軍事オタク」に育ちすぎてやがる……!
小早は飛び級で17歳には卒業し、そこから戦地を転々としてきた。 関も首席卒業のエリート街道まっしぐらで、おしゃれ着なんて選ぶ暇もなかっただろう。 敵の核を射抜く精度は天才的なのに、レストランの入り方すら怪しいとは。
「違う、関。軍服は脱げ。……小早、お前もだ。プロテクターが隠れるとか以前に、もっとこう……フワッとした、女の子らしい服とか持ってないのか?」
「フワッとした……? 」
真顔で聞き返してくる小早に、隣で黙っていた桜木がついに頭を抱えて唸り声を上げた。
「……中山、ダメだこいつら。まずは『服を買いに行く訓練』から始めないと、当日ホテルで門前払い食らうぞ」
「……そうだな。まさかドレスコードという壁に阻まれるとは……」
俺は、自分の「教え子たち」のあまりの世間知らずっぷりに、呆れを通り越して妙な愛おしさを感じていた。 まったく、戦場での教育よりも、一人の大人としての教育の方が、俺たちにとってはよほど難易度の高い任務になりそうだ。




