あれ……?2人ってもしかして……
深夜、静まり返った執務室で、俺はデスクに広げた膨大な書類と格闘していた。いつもの事務処理に加え、小早のこれまでの既往歴、リハビリの進捗、そして北部大侵攻での戦績を改めて一つのファイルにまとめていたのだ。
……肺活量はようやく受傷前の8割を超えたか。右手の麻痺も改善傾向。だが、この「戦績」の裏にある代償が重すぎる……
ふと、小早の個人記録にある「生年月日」の欄に目が止まった。
……夏生まれ。……待てよ。……あぁ、そうか
俺はペンを握ったまま、凍りついたように動きを止めた。
慌てて、もう一人の教え子――関の資料を束の中から引き抜く。あいつは小早より一学年上で、誕生日は昨日の秋、10月頃だ。
計算が脳内で弾き出された瞬間、俺はたまらず片手で顔を覆った。
「……しまった……。なんだかんだ、お祝い、出来てなかったな……」
思わず漏れた独り言に、向かいの席で同じく書類の山に埋もれていた桜木が、怪訝そうに顔を上げた。
「中山、藪から棒に何だ。……お祝い?」
「桜木、あいつらの……関と小早の、二十歳の誕生日だ。この半年、それどころじゃなくて、完全に頭から抜け落ちていた」
俺の言葉に、桜木はピクリと眉を動かし、手元の資料へ視線を落とした。あいつの脳内でも、これまでの出来事が凄まじい速度で逆再生されているのが分かった。
「……小早が二十歳になったのは、あの夏か。……人工呼吸器に繋がれ、ICUで生死を彷徨っていた時期だな」
「あぁ。あいつが『死なせて』なんて呟いていた頃だ。お祝いなんて空気じゃなかった」
「関のときは……ちょうど去年の秋か。……立川に送り返され、神力が出せなくなって自責の念に駆られていながらリハビリをしていた時期だな」
二人で顔を見合わせ、同時に大きな溜息を吐きながら頭を抱えた。
本来なら、二十歳という節目の「成人祝い」は、盛大に祝われるべき門出のはずだ。なのに、俺たちの教え子たちは、一人は死の淵で絶望し、一人は再起不能の恐怖に怯えながら、誰からも祝福されることなく「大人」という戦場に放り込まれてしまったのだ。
「……最悪な教官だな、俺たちは」
「……否定はできん。生き残らせることに必死すぎて、あいつらが一個の人間として成長する瞬間を、完全に見落としていた」
桜木がぶっきらぼうに吐き捨てるが、その声には隠しきれない苦渋が混じっている。あいつ、関のことを誰よりも気にかけながら、厳しいことばかり言ってきたからな。
「桜木、遅すぎるとは思うが……埋め合わせをしよう。二人を呼んで、美味いもんでも食わせてやるんだ。軍人としてじゃなく、ようやく『大人』になったあいつらを、一人の人間として労ってやりたい」
「……あぁ。立川のいい店を予約しておけ。支払いは俺も持つ」
俺はリハビリの計画書を一度閉じ、代わりに手帳のカレンダーを開いた。
あの子たちが背負わされたあまりにも重すぎる二十歳の始まり。その空白を少しでも埋められるように、俺たちは不器用な大人としての「反省会」と「計画」を、夜が明けるまで練り続けた。




