編み込みの特訓?
翌日髪を下ろしたままリハビリ室に現れた小早の髪を使ってちょっと特訓することになった
「違う、そこはもっと力を抜けと言っているだろう。……関、お前は神力の精密操作なら学年トップレベルだったはずだろうが」
俺は呆れを通り越して、もはや乾いた笑いが出そうになるのを堪えていた。
リハビリ室の陽だまりの中、俺の目の前では「数年に一度の逸材」と謳われた攻撃手、関が、額に脂汗を浮かべながら小早の髪の一房と格闘している。
「……っ、分かってます。分かってるんですけど、指先が勝手に攻撃用の神力練る時みたいに強張るんです……!」
「お前の指は敵を切り裂くためにしか動かせないのか。これは武器じゃない、女の子の髪だぞ。……ほら、そこは三つに分けた束の右を真ん中に持ってくるんだ。もっと優しく持て、引きちぎる気か」
俺は姉貴に叩き込まれた記憶を呼び覚まし、関の震える手の上から強引に指を添えて、正しい「編み込み」の軌道を教え込む。
戦場では一瞬の迷いもなく敵のコアを貫くあいつの手が、今は生まれたての小鹿のようにプルプルと震えている。その様子があまりにおかしくて、ベッドで腹を押さえている中山が、ついに堪えきれずに吹き出した。
「はははっ! 関、お前……そんな顔して戦ってたこと一度もないぞ。……痛っ、はは……っ、腹に響く……っ」
「中山、笑うな。こっちは真剣なんだ。……ほら関、次は左の束だ」
俺がぶっきらぼうに促すと、椅子に座って「練習台」になっている小早が、くすぐったそうに、そしてこの上なく幸せそうに肩を揺らして笑った。
「ふふっ……桜木教官、関をあんまりいじめないでください。……でも、二人に髪をいじってもらえるなんて、なんだか贅沢ですね」
小早のその穏やかな笑顔を見て、俺の胸の奥に溜まっていた重苦した後悔が、ふっと軽くなるのを感じた。 あんなにボロボロになって、一度は「死なせて」とまで口にしたあいつが、今、こうして髪をいじられるだけの些細なことに喜びを感じている。
……まったく。こんなことに四苦八苦する日が来るとはな
「……できた。……できました、教官!」
数十分の格闘の末、関がようやく作り上げたのは、お世辞にも「綺麗」とは言えない、少し歪な編み込みだった。
だが、関はやり遂げた英雄のような顔をして、小早の頭を愛おしそうに見つめている。
「ありがとう、関。……私、これ、ずっと解きたくないな」
小早が不自由な右手をそっと添えて、その不格好な結び目を慈しむように触れる。
それを見て、関が真っ赤な顔をして視線を泳がせ、中山がまた涙目になりながら笑う。
あの地獄のような襲撃や、冷たい病室の静寂を越えて、俺たちがようやく手に入れた「普通」の日常。
不器用な弟子たちの笑い声を聞きながら、俺は次に教えるのは何にしようか――そんな平和すぎる課題を、静かに頭の中で組み立てていた。




