番外編:教官がまだ教官では無かった頃⑪
意識を取り戻してから一ヶ月。鉛のように重かった身体を、リハビリという名の拷問で無理やり動かし、俺はようやく立川基地の訓練場へと戻った。
謝らなければ、……そして今度は俺が、桜木の帰る場所にならなきゃいけないんだ
だが、詰所に足を踏み入れた俺を待っていたのは、相棒の姿ではなく、一枚の冷たい事務連絡だった。
桜木の休職。
俺が眠り、そして目覚めたあの日、何も知らずに放った「もうここには来なくていい」という言葉が、あいつの最後の糸を断ち切ってしまったのだと、ようやく理解した。
それからの日々は、地獄だった。
かつての優秀な5人班の中で、なぜ「俺たち二人だけ」が生き残ったのか。
廊下を歩けば、「死に損ない」という無言の視線が背中に突き刺さる。「仲間を見捨てたのか」「自分たちだけシールドで助かったのか」――根も葉もない噂と、死者たちの沈黙が、一歩ごとに俺の精神を削り取っていった。
「……あぁ、そうか。これが『生き残り』の本当の意味なんだな」
空を見上げても、かつてのように自由を感じることはなかった。雲の切れ間に、爆発に呑み込まれて消えた仲間の顔がよぎる。
神力を練れば、あの日の閃光と爆鳴が耳の奥で再現され、吐き気が止まらず、吐く時もあった。桜木を待つと決めたはずの心は、孤独と自責の底に沈み、日に日に形を失っていった。
夜、眠りにつこうと目を閉じれば、暗闇から仲間たちが手招きをしている気がした。
「中山、なんで俺たちだけ……」
幻聴に苛まれ、夜通し震える手を抑えつける毎日。やがて俺の精神は、限界を迎えて音を立てて崩れ落ちた。
「……中山中佐。しばらく任務を離れ、療養に専念してください」
上官から渡されたのは、かつて桜木に手渡されたのと同じ、休職願の書類だった。
情けなかった。あいつに「戻るから待っていろ」と言いたかったのに、俺自身がその場所を守りきることすらできなかった。
辞めたいな……。もう、何もかも。
「使い手」としての誇りも、指導者としての理想も、すべてはあの日の爆風に置いてきてしまったのかもしれない。
待つことすらできなかった俺が、どの面を下げてあいつに声をかけられる?
謝ることも、励ますことも、ただ「生きていてくれ」と願うことすら、今の俺には傲慢なエゴのように思えて――。
俺は、桜木のいない静まり返った自室で、ただ一人、震える手で何も書かれていない真っ白な休職届を眺め続けていた。
立川の空は、あの日と同じように、残酷なほど青く澄み渡っていた。




