番外編:教官がまだ教官では無かった頃⑩
日を追うごとに、鉛のように重かった身体が少しずつ軽くなっていくのを感じていた。感覚が戻るにつれ、鼻を突く消毒液の匂いや、規則的な機械音がいっそう鮮明に脳を刺激する。
見舞いに来ていた家族の顔を見つめ、俺は喉の奥にこびりついた乾きを押し殺して、ずっと気になっていた「あの日」のことを尋ねた。
「……戦闘は、どうなったんだ。みんなは、無事なのか」
問いかけた瞬間、家族の表情が凍りついた。
答えを躊躇い、悲痛な色を浮かべて視線を泳がせるその姿だけで、すべてを察してしまった。
あぁ……そっか。そういうことか。
震える声で語られた真実を聞き進めるうちに、俺の心臓は激しく波打ち、視界が白く明滅した。
生き残ったのは、俺と桜木だけだった。
士官学校時代から共に笑い合った仲間たちは、皆あの日、爆発に巻き込まれて、跡形もなかったらしい。
その事実に打ちのめされると同時に、俺は自分が桜木に対して犯した過ちの重大さに気づき、血の気が引いた。
あいつは……桜木は、俺が目を覚ますまでの間、たった一人でこの地獄を背負っていたのか。
周囲から「死に損ない」と罵られ、「なぜお前たちだけが生き残った」と糾弾されながらも、昏睡する俺を気遣い、この残酷な真実が俺の耳に届かないように必死に守り続けてくれていた。
それなのに、俺は……。
ようやく目を覚ましたあの日、何も知らない俺は、憔悴しきったあいつの顔を見てあろうことか「もうここには来なくていい」と突き放した。
あいつがどれほどの後悔と孤独の中にいたかも知らず、独りよがりな思いやりで、あいつから唯一の拠り所を奪ってしまった。
……何をしてるんだ、俺は……っ。
あいつの指先がどれほど冷たかったか。あの泣きそうな顔がどれほど限界だったか。
自分を責め続け、誰にも弱音を吐けずにいた親友を、俺は救うどころか地獄の底へ突き落としたのだ。
酸素マスクの向こうで、呼吸が震え、熱い塊が込み上げてくる。
「……すまない、桜木……本当に、すまない……」
届くはずのない謝罪を、無機質な病室の天井に向かって何度も何度も繰り返した。
生き残ってしまったことへの罪悪感と、一番守りたかった相棒を傷つけてしまった後悔で、胸が掻き毟られるように痛かった。




