戻りたい
昨日、あんなに声を殺して泣きじゃくった小早は、限界まで絞り出された気力の糸が切れたように、そのまま深い眠りへと落ちていった。
強張っていた小さな顔がどこかほっとしたような表情に見えた一方で、付き添っていた俺のほうも、まるで全身の水分を吸い取られたかのような酷い疲労感に気だるく包まれていた。
そして迎えた、今日の歩行訓練。
昨日は立つだけで精一杯だった小早は、今日、リハビリ用の歩行器を頼りにしながら、わずか数歩を踏み出すだけで激しい息切れを起こした。その呼吸の乱れと胸部の動きに連動して、肺の裂傷や左肩の傷口にえぐるような痛みが走り、彼女の幼い顔は見る見るうちに苦痛でぐしゃぐしゃに歪んでいく。
だが、昨日までの、すべてを諦めたような虚ろな絶望とは違っていた。泥を這うようであっても、ほんの少しでも前に進もうとする強い意志と気力が、その震える足元に確かに宿っていた。
「……お疲れ様。よく頑張ったな」
リハビリを終え、ベッドの上でぐったりと息を荒らげている小早にそう声をかけると、彼女は乾いた唇をわずかに動かし、掠れた、けれどまっすぐな目で俺を見上げた。
「……教官……私……戻りたいです。また、あの4人で……空を飛びたいです」
「……そうか。分かった。俺たちは待っている。……お前がいつだって戻ってこられるように、何年でも、ここで待ち続ける。だから……っ」
その先の言葉が、どうしても喉で引っかかったように続かなくなった。「だから大丈夫だ」とか、「心配するな」とか――今のボロボロになった現実に直面している彼女に対して、そんな無責任な慰めがどれほど軽薄に響くか分かっていたからだ。何を言ってやれば正解なのか、言葉が見つからなかった。
「……だから……私、絶対に戻ります……っ」
痛みに耐えかねて涙を滲ませながらも、小早はふっと、どこか痛々しく、それでいて昔の面影を残す不器用な笑みを浮かべた。
その「へへっ」と漏れた笑いを見た瞬間、胸の奥から熱いものがこみ上げてきて、視界が急に滲んだ。だが、こんなところで感極まって見せるわけにはいかない。完全復活して、再びあの空を取り戻したその時にこそ、この涙はとっておかなきゃいけないんだ。
「……あぁ。今日はもういい、しっかり休むんだぞ」
こみ上げる感情を無理やり押し殺すようにそう言い残し、俺はこれ以上耐えられなくなる前に、素早く病棟を後にした。




