ICUからの移動
目が覚めてからというもの、自分の身体はまるで生気を失った他人の肉体のように重く、どこを向いても激しい痛みが付きまとっていた。あの日、あの地獄のような襲撃から一体どれだけの時間が流れたのか、もはや何日経ったのかすら分からない。
「……一般病棟へ移動するぞ。しっかり寝ていろ」
頭上から降ってきたのは、聞き慣れた、少し低く掠れた桜木教官の声だった。
視線をわずかに向けると、教官は私の枕元に立ち、冷たい金属のストレッチャーの柵をしっかりと掴んでいた。視界の端では、これまでずっと私の生命を繋ぎ止め、同時にその存在を縛り付けていた心電図モニターの配線やチューブが次々と外されていく。あんなにも耳障りで、疎ましかったアラームの電子音が消え去った瞬間、胸の奥から急に、広大な世界からたったひとり切り離されたような言いようのない心細さと恐怖が押し寄せてきた。
ゴロゴロと、重苦しい車輪の音がコンクリートの床を鳴らし始める。
ICUの重厚な自動扉がウィィと音を立てて開いたとき、廊下から一瞬だけ、肺の奥まで冷たく刺さるような外の風が吹き抜けた。
……あぁ、外の、空気だ……。
生きている人間だけが吸うことのできる、生きた空気がそこにあった。
自分で首を動かすことさえ億劫で、天井の蛍光灯が規則正しいリズムで後ろへと流れていくのを目をしばたたかせながら見上げる。時折、すれ違う見知らぬ患者や医療スタッフたちの話し声や、ナースカートの車輪が擦れる音が遠くのほうで反響していた。
ここはもう、絶望と死の気配が澱のように漂っていた「あの場所」ではないのだと、ぼんやりとした脳が少しずつ現実として理解し始める。
その時、ガタ、とストレッチャーが床の小さな段差を乗り越えた。
「っつ……!」
衝撃で、左肩の深く抉られた傷に、神経を焼かれるような鋭い痛みが走る。
無意識に顔を歪めた私の視界に、ふと教官の大きな手が入り込んできた。
教官は余計な言葉を一切発することなく、私の薄い布団の上から、強張った左手をそっと包み込むように押さえてくれた。
「動くな。……もう少しだ」
病院のエレベーターが静かに上昇し、やがて滑らかに扉が開く。
たどり着いた一般病室は、午後の柔らかな光がカーテン越しに透けていて、驚くほど明るかった。
ストレッチャーからベッドへと、数人の看護師がかりで身体に移される瞬間。全身の傷が引き裂かれるような浮遊感と不安の中で、私はただ、教官の服の袖を、動かない右手の代わりに震える左手でぎゅっと、引きちぎれんばかりに握りしめていた。




