代われるものなら
こんな状態だというのに、軍では中山の分の滞った仕事や処理すべき書類の山に追われる毎日が続いている。それでも、関が自分の任務だけでなく積極的にパトロール任務などを引き受けてこなしてくれるおかげで、どうにか時間をやりくりし、わずかに限られた面会時間だけは病室へと足を運び、専門の医療従事者から直接ふたりの詳細な状態を聞き出すことができていた。
「王子さんは本日より離床訓練――ベッドの端に腰掛ける訓練を開始します」
「まだ人工呼吸器も外れていない状態なのにですか?」
関がすかさず、切迫した声で医療スタッフに詰め寄る。
「はい。このまま臥床状態が続けば無気肺や肺炎を引き起こすリスクがあります。ただし、上半身を起こした瞬間に血圧が激しく乱高下し、強烈な眩暈に襲われます。そのためスタッフ数名がかりで慎重に対応します。また、起き上がる際に左肩の縫合部が引き裂かれるような激痛を伴う場合もあります。……それに、受傷後数日を経て、今後は右手全体に強烈な電気が走るような神経障害性の痛みが出始める時期でもあります。さらに拘縮を防ぐためのリハビリも同時に始まります。昨日よりも意識がクリアになる分、これからはより痛みに敏感になりますから、ここからが本当の意味で心身ともに最も辛く苦しい時期になります。ご家族や身近な方々による精神的なサポートをよろしくお願いします」
医療スタッフの淡々とした説明を聞きながら、傍らに立つ関の横顔に目をやると、その瞳には「あれだけもうボロボロになって苦しんでいる小早に、これ以上もっと痛い思いをさせるっていうのか」という絶望と恐怖の色がくっきりと浮かんでいた。
面会が許可され、重い足取りで小早のベッドへと歩み寄ると、彼女の目尻からはツーっと一筋の涙が静かに流れ落ちていた。
「……小早……おい、大丈夫か……?」
関が震える声で必死に呼びかけるが、気管に挿入された人工呼吸器のチューブが声を完全に塞いでおり、小早が言葉を発することはできない。
「……小早、今すごく……痛いよな」
「もうすぐ良くなるよ」なんて、薄っぺらい気休めの言葉はとても口に出せなかった。これから先、想像を絶する痛みや過酷な苦しみと最前線でたったひとりで向き合っていかなければならないのは、他の誰でもない、今このベッドで泣いている小早なのだから。
――代われるものなら、今すぐ俺がこの痛みと苦しみのすべてを代わってやりたい。
そんなどうしようもない無力感を噛み締めながら、俺は震える手で、小早の頬を伝う冷たい涙をそっと拭うことしかできなかった。




