隣の教え子
隣のベッドとの間にあるカーテンを一枚挟んだ向こう側に、小早がいる。
「王子さん、痰の吸引しますねー」
看護師の穏やかな声掛けが聞こえた直後、
「――っ、ひっ……!」
胸を抉られるような、かろうじて声を押し殺したような悲鳴が耳に飛び込んできた。小早があんな、すべてを怯えるような痛々しい声を上げるのを聞くのは、教官人生を通じて初めてだった。
その苦悶の気配を感じるたびに、不思議と俺自身の傷口までが同じように引き裂かれるような激痛を覚える。
小早のベッドには、わずか数分おきに医師や看護師が慌ただしく出入りし、懸命にその状態を確認し続けている。……それほどの頻度で人が張り付かなければならないということは、あいつの状態がそれだけ深刻で、危機的なラインをさまよっているという動かぬ証拠だ。
「……小早……」
今すぐそのベッドへ這ってでも行き、自分の目で小早の様子を確かめたい。
だが、腹部を貫いた重度の創傷と、そこから広がる激しい疼痛のせいで、身体は鉛のように重く、わずかに寝返りを打つことすら許されない。
――不甲斐ない。
あのとき、俺が奇襲を防ぎきれずに関内の妹に刺されなければ、小早がこんな理不尽な魔手に狙われることも、あの冷たい血の海に倒れることもなかったはずなのに。
守るべき教え子を庇うどころか、致命的な重傷を負わせ、今もただベッドの上で天井を仰ぎ見るしかできない自分の無力さが、どうしようもなく憎らしかった。




