関内くんの最期
耳の奥で、ジリジリと何か異常な電波をキャッチしたような異様な音が響いている。
その方向へ目を向けると、そこには見覚えのある食堂の風景が広がっていた。
――あぁ、これって、あの日の光景なのかな。
卒業試験の結果発表の日は、いつもとどこか空気が違う。私はあの時、神力の副作用でずっと寝ていて見ることができなかった景色だ。
食堂のなかを歩いていくと、いつもの窓際の席で、関内兄弟が楽しそうに笑いながら朝ごはんを食べている。
「関内く――」
名前を呼びかけようとした、その瞬間だった。
轟音と、視界を埋め尽くすほどのすさまじい土煙。あまりの衝撃に、思わず反射的に目を強く閉じる。
再び目を開けたとき、そこにあったのは、さっきまでの浮かれた空気が嘘のように消え去った、地獄絵図だった。充満する土煙、鼻を突く鉄と硝煙の匂い、そしてあちこちで誰かを必死に呼ぶ生徒たちの悲鳴が響き渡っている。
「お兄ちゃん……っ!」
頭から血を流しながら、崩れ落ちた瓦礫の隙間から伸びている誰かの手を懸命に掴み、絶望的な声で兄を呼ぶ姿。
あれは、関内くんの声だ。
一目でわかる。もう、その兄はピクリとも動かない。死んでいるんだ。
関内くんは、何か途方もない決意をしたように、ガタガタと震える足で立ち上がった。腰が抜けて動けなくなっている者や、負傷して這いつくばっている後輩たちを見渡し、掠れた声で必死に指示を飛ばす。
「歩ける人は、自力で逃げて……! 先生を呼んできて。歩けない子は、君たち二人で協力して運んで……他の子は……いないか。とにかく、重傷の人を優先して……!」
――だめだ。そんなの、だめだ。
このまま一人で行かせたら、死んでしまう。
土煙の向こうへ消えていこうとする関内くんの背中を掴もうと、必死に腕を伸ばしたが、私の手は空を切るだけで、どれだけ足掻いても届かない。
周囲では叫び声が飛び交い、あちこちに負傷者や動かなくなった体が転がっている。救護に駆けつけたはずの教師たちも、あまりのパニックと異常事態の前に統率を失い、誰の叫び声もかき消されて届かない。
まだまともな戦闘訓練も受けていない、歴の浅い1、2年生の生徒たちが戦えるわけがなかった。
3年生が下級生を守るように前線へ駆け出していく。
目の前が真っ暗になる中、私は土煙のなかで中山班のメンバーの姿を探した。
「ぐあっ……!」
聞き慣れた、けれど聞きたくなかった声が耳を打つ。
あぁ、関内くんだ。
その場にうずくまり、喉の奥からゴボゴボという水音を立てながら、真っ赤な血を大量に吐き出している。
逃げて……! そこから逃げ出せば、もしかしたら助かるかもしれない。
そう叫ぼうとしても、私の声は関内くんの耳には届かない。すぐ傍らには、重傷を負いながらもまだ微かに息のある1、2年生の後輩たちが倒れている。
「まも……、守ら……なきゃ……っ!」
関内くんは、一歩地面を踏みしめるごとに生温かい血を吐きながら、這うようにして歩みを進める。
「……動ける人は応戦を……! けが人を……早く、安全な場所へ運んでくれ……!」
息をするだけでも、肺が破裂しそうなほど苦しいはずなのに。背中の激痛に顔を歪めながらも、最後まで後輩たちを庇い、敵の攻撃から身を挺して守り続けている。
私は、そのあまりにも壮絶すぎて目を覆いたくなる関内くんの姿を、ただその場で立ち尽くし、眺めることしかできなかった。
やがて、黒い怪物が撃退され、遅れて救護班が血まみれの食堂へと飛び込んできた。
その光景を見た瞬間、関内くんは糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。
ヒューヒューと間抜けで痛々しい喘鳴を響かせながら、最期まで愛する兄が連れていかれたその方向へと、血にまみれた手を精一杯伸ばしたまま――。




