事情聴取
中山が意識を取り戻したという報せが入った直後、俺は本部からの急な呼び出しを受けた。
病院の警備と小早の付き添いを関に任せ、重い足取りで指定された場所へ向かうと、そこで待ち受けていたのは冷徹なまでの事情聴取だった。
上層部の思惑が透けて見える。軍はこの不祥事と惨劇を、表沙汰にせずできるだけ内密に、表向きの体裁を取り繕ったまま処理したいらしい。そのための隠蔽工作か、警察に引き渡されていたはずの関内の妹の身柄が、いつの間にか軍の管理下へと移されていた。
冷たい取調室の扉が開き、目の前に引き立てられてきた彼女と視線が交わる。
「……あなたを殺せなくて、本当に残念だわ」
開口一番、憎悪を煮詰めたようなその言葉が投げつけられた。
届かなかった。俺たちの声も、そしてあの時、命を削りながら小早が血だらけになって振り絞った謝罪の言葉すらも、この子の心には一ミリたりとも届いていなかった。
「……中山も、小早も、生きている」
「……どうせ、すぐに直に死ぬわよ」
「そんなことはない。それよりも……。たとえ未成年や子供による犯罪だとしても、今回のことは無期懲役すら免れないほどの重罪だぞ」
「だから何よ。そのために私は私の人生をすべて捧げているの。そんなのどうだって構わないわ」
――勿体ない、という感情が胸の奥でドス黒く渦巻く。
あれほどの優れた運動神経と並外れた身体能力があれば、警察官でも、消防士でも、あるいは第一線で輝くスポーツアスリートでも、いくらでも望む道があったはずだ。神力さえ備わっているなら、軍に身を置けば間違いなく重宝される大歓迎の人材だっただろうに。
そのすべての才能と未来を、彼女はたった一つの復讐という名の狂気に、すべて全ベットしてしまった。
「俺たちから伝えられることは、あの時すべて伝えた。……だけど、今改めて何かを伝えるとしたら。お前の兄を生き返らせることは、どう足掻いてもできない。仲間たちの犠牲を糧になんて、綺麗ごとを言うつもりもない。ただ、俺たちはこの命を、これからも誰かの命や生活を守るために使い続ける。それだけだ」
救えなかった。
初めから自分にすべてを救えるなどという傲慢な思い上がりを持っていたわけではない。
それでも、言葉がここまで誰にも届かないものだとは知らなかった。俺や中山の口から何を紡いだところで、もう彼女の心を救うことなどできないのだろう。
救えない人間はいる。それは紛れもない冷酷な現実だ。だからこそ、そんな悲劇を少しでも減らすために訓練を重ね、教え子たちを叩き込んできたはずなのに。
いざ目の前で教え子が散り、遺族が壊れていくのを前にすると、無力感が全身を蝕む。
できることなら、自分のこの命と引き換えにしてでも、死んでいった教え子たちの無念をすべて晴らしてやりたい。
だが、そんな奇跡が起きるわけがない。どれほど強く願ったところで、一度失われた命は二度と生き返らない。あいつらはもう死んだのだ。覆すことのできない事実として、そこにある。
じめじめとした湿気を含んだ重い空気が、喉の奥に鉛のように詰まる。
言い訳なら、頭の中でいくらでも吐き出すことができた。
――教員側の人間だってあの時は多くが死に、重傷を負って手が回らなかった。軍のいい加減な報告書以上の詳細な情報を、遺族に丁寧に伝えるだけの余裕すら残されていなかった。生き残った生徒たちの後追い自殺や精神崩壊が相次ぎ、そのケアに走り回るだけで精一杯だったんだと。
だが、そんな泥臭い内情の言い訳を並べ立てたところで、遺族が納得できるわけがない。納得できるはずがなかったんだ。




