目を覚ます
耳障りな機械の電子音、目に突き刺さるような白い天井、鉛のように重い身体、そして息のしにくい酸素マスク。周囲でざわめく人の気配が、ぼんやりとした意識のなかで少しずつ輪郭を取り戻していく。
「……ここ、は……どこだろ……う」
「中山さん? 私の声が分かりますか?」
白衣を着た看護師の顔が、曇った視界のなかで覗き込んできた。
「ここは……?」
「立川附属病院です! 刺されて救急で運ばれてから、丸一日ずっと意識が戻らなかったんですよ!」
……それじゃあ、今はもう翌朝の朝か。
頭の回転が鈍い脳みそで必死に状況を整理しながら、俺は掠れた声で問いかけた。
「関内、は……」
「だめです、まだ動いちゃ! いいから安静にしていてください、今すぐお医者様を呼んできますから!」
制止する間もなく、看護師はバタバタと慌てた様子で病室から駆け出していき、すぐに医師を連れて戻ってきた。
起き上がろうとわずかに腹部に力を入れた瞬間、内臓が引き裂かれるような激痛が走り、思わず顔が歪む。小早もあの時、俺と一緒にあの場所にいたはずだ。何か、とんでもないことが起きたに違いない。
「ちょっと、中山さん! 無理に動いたら縫合した傷が開きますよ、寝ていてください!」
案の定、駆けつけた医師や看護師たちにこっぴどく叱られてしまった。
だが、どうやら致命的な危機――山自体はなんとか越えることができたらしく、処置を終えるとそのまま個室の病室へと移動させられた。
しばらくして、重々しく開いた病室のドアから、2つの人影が入ってきた。
「……中山」
「……教官……」
そこに立っていた桜木と関の顔は、血の気が失われて酷く青白く、生きている人間のそれとは思えないほど生気がなかった。2人の尋常ではない雰囲気に、胸の奥が冷たくざわめく。
「どうした……小早は、どうしてる?」
俺の問いかけに、桜木は苦悶に満ちた顔を歪め、一瞬、喉の奥で何を言うべきかと言葉を飲み込んだ。そして、絞り出すような重い声で事実を告げる。
「……小早も、刺された。……まだ、意識が戻らない」
頭を殴られたような衝撃が走った。
襲撃者の狙いは、あの場にいた俺や桜木だけだと思い込んでいた。それなのに、どうして小早にまでその矛先が向かったんだ。
「関内の妹は……どうなった」
「……捕まった。今は警察に身柄がある。」
「そうか……」
ひとまず、これ以上2人が直接的な危害に晒される危険はないということか。
ベッドの脇に立ち尽くす桜木から、途切れ途切れに小早の容態を聞かされる。多量の出血があり、緊急で大量の輸血を行ったという。だが、過酷な任務の疲労も重なって体力の消耗が激しいうえに、本人の生命力にすがるしかない危篤状態だと知らされた。
――おかしい。あの日、あの暗闇の境界で、俺は確かに小早の小さな体をしっかりと抱きかかえ、一緒にこっち側へ戻ってきたはずなのに。
あんなにも必死に連れて帰ってきたというのに。
どうして小早は、まだ目を覚まさないんだ。
冷え切っていく病室の空気の中で、俺は自分の無力さを噛み締めながら、ただ天井を見上げるしかなかった。




