鉄の匂い
寒い。底冷えするような寒さが、全身の感覚を麻痺させていく。
あたたかさを失い、ただ重みだけが増していく小早の体を医療チームへと引き渡し、俺は再び手術室の冷たい扉の前に立ち尽くしていた。小早の体から溢れた血で染まった自分の隊服が、外気と恐怖で冷え切り、肌に張り付いて酷く寒かった。
すぐに本部と関へと連絡を入れる。もうすぐ本部の人間同伴で、関もこの病院に駆けつけてくるはずだ。
「……中山、お願いだから、小早と一緒に戻ってきてくれ」
誰ひとりいない無機質な廊下でそう呟いた瞬間、膝の力が一気に抜け、その場に崩れ落ちるようにへたり込んだ。
「教官!!」
「……関」
「小早は!? いったい何があったんですか!?」
「目を離した隙に……関内の妹に、小早まで刺されて……すまない」
「いっ、別に教官のせいなんかじゃ……! 今、小早は中に……?」
「ああ」
関が差し出してくれた震える手を強く掴み、どうにか足を踏ん張って立ち上がる。関は、血まみれになった俺の姿を見て、一瞬息を呑み、絶望の色を瞳に浮かべた。
「小早も……助かるんですよね……?」
震える声を絞り出す関を、俺は力強く抱き寄せた。
「桜木教官……?」
「……2人が、生きて戻ってくるのを待とう」
「はい……」
その後、車で駆けつけた本部の同僚に、起きた一部始終を淡々と報告した。
「桜木、一旦これに着替えろ。全身血だらけだぞ。……関内の妹はすでに身柄を拘束した。病院側にも数人の警備をつけてある。お前も少し寝ろ」
同僚の計らいで、病院内の空いている仮眠室を借りることになった。厳重な警備上の理由もあり、関も同じ部屋で休むことになった。
言われるがままに血に染まった制服を脱ぎ捨て、着替えたものの、皮膚の毛穴にまで染み込んだ小早の血痕からは、いつまでも生臭い鉄の匂いが消えなかった。




