浮遊
体がふわりと浮き上がるような、変な感覚。
――あれ、私、本当にここで死んでしまうのかな。
すぐ近くで、桜木教官の必死に声を張り上げる気配がする。
無事だったんだ……よかった……。
もう、瞼を開けておくことすらできないくらい、酷く疲れた。
そうだ、私、大阪出張の帰りで、そもそもずっと眠たかったんだ。
もう、このままここで眠ってしまっても、いいよね……。
『小早、先に逝くな!』
……この言葉、どこかで聞いたことがあったっけ。
遠ざかる意識のなかで、景色が勝手に切り替わる。
あたたかな日差しに包まれた中庭。ここは、かつて中山班がよく自主練をしていた場所だ。日当たりが良くて、とても気持ちがよかった。
「ねぇ小早。中山教官の言う通り、あまり生き急ぐような真似はしないでよね」
ふと振り返ると、そこに懐かしい顔があった。
「安宅くん、そんなこと言ったって……私たち軍人なんだから、守るべきものを守るのが使命でしょ」
「小早はさ、もう少し自分が傷ついたり、もし死んだりしたらどれだけ周りが悲しむかの想像をしないの?」
「そんなこと言われてもなぁ……。ねぇ、もし私が死んだら、安宅くんは悲しんでくれるの?」
「何を言い出すかと思えば……」
呆れたように笑いながら、安宅くんが私の頭をガシガシと乱暴に撫でる。普段はあんなに優しいのに、どうしてこんな時だけやけに力強いんだろう。
「安宅もそうだし、僕もそうだけどさ。何より、中山教官がきっと一番悲しがるからね。僕らは何があっても、生き残らなきゃいけないんだよ」
そう言って、関内くんが柔らかく、けれどどこか切なそうに笑っていた。
――あぁ、それ、中山教官の口癖だったよね。
でも、私以外の人はみんな、もう先に行ってしまったじゃない。
ひとりぼっちなんて、寂しいよ……。みんなを助けられなくて、ごめんね……。今度は、私もみんなのところに行ってもいいかな。
全身の力が嘘のようにスルスルと抜けていき、意識の底へ底へと体が沈み込んでいく。
このまま眠ったら、みんなに会えるのかな。
遠く、どこまでも深く冷たくなっていく意識の境界で、先に行ってしまったみんなの笑い声が、幻のように聞こえた気がした。




