↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
209/281

浮遊

体がふわりと浮き上がるような、変な感覚。

――あれ、私、本当にここで死んでしまうのかな。

すぐ近くで、桜木教官の必死に声を張り上げる気配がする。

無事だったんだ……よかった……。

もう、瞼を開けておくことすらできないくらい、酷く疲れた。

そうだ、私、大阪出張の帰りで、そもそもずっと眠たかったんだ。

もう、このままここで眠ってしまっても、いいよね……。

『小早、先に逝くな!』

……この言葉、どこかで聞いたことがあったっけ。

遠ざかる意識のなかで、景色が勝手に切り替わる。

あたたかな日差しに包まれた中庭。ここは、かつて中山班がよく自主練をしていた場所だ。日当たりが良くて、とても気持ちがよかった。

「ねぇ小早。中山教官の言う通り、あまり生き急ぐような真似はしないでよね」

ふと振り返ると、そこに懐かしい顔があった。

「安宅くん、そんなこと言ったって……私たち軍人なんだから、守るべきものを守るのが使命でしょ」

「小早はさ、もう少し自分が傷ついたり、もし死んだりしたらどれだけ周りが悲しむかの想像をしないの?」

「そんなこと言われてもなぁ……。ねぇ、もし私が死んだら、安宅くんは悲しんでくれるの?」

「何を言い出すかと思えば……」

呆れたように笑いながら、安宅くんが私の頭をガシガシと乱暴に撫でる。普段はあんなに優しいのに、どうしてこんな時だけやけに力強いんだろう。

「安宅もそうだし、僕もそうだけどさ。何より、中山教官がきっと一番悲しがるからね。僕らは何があっても、生き残らなきゃいけないんだよ」

そう言って、関内くんが柔らかく、けれどどこか切なそうに笑っていた。

――あぁ、それ、中山教官の口癖だったよね。

でも、私以外の人はみんな、もう先に行ってしまったじゃない。

ひとりぼっちなんて、寂しいよ……。みんなを助けられなくて、ごめんね……。今度は、私もみんなのところに行ってもいいかな。

全身の力が嘘のようにスルスルと抜けていき、意識の底へ底へと体が沈み込んでいく。

このまま眠ったら、みんなに会えるのかな。

遠く、どこまでも深く冷たくなっていく意識の境界で、先に行ってしまったみんなの笑い声が、幻のように聞こえた気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。