↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
208/281

どうしてまだ死ねないんだっけ

桜木教官に名前を呼ばれたような気がしたけれど、耳鳴りと遠ざかる意識のせいでよく聞き取れない。

――えっと、私、どうしてこんなに体が動かないんだっけ。

ぼんやりとした思考の底で、まるで温いお湯に浸かっているかのような気だるさと、腹部と左肩の2箇所をジリジリと焼かれているような激しい痛みが交錯している。

あぁ、そうだ。関内くんの妹に、ナイフで刺されたんだっけ。

桜木教官に、早く逃げてくださいって言わなくちゃいけないのに。

息を吸い込もうとするたびに胸の痛みが跳ね上がり、反射的に生温かい咳がこみ上げてくる。

苦しい……喉の奥が詰まって、何も声が出ない。

関内くん、ごめんね。

あなたの、あんなに大切だった妹さんのことすら、私は止めてあげられない。

桜木教官が私を抱きかかえる腕に、ぎゅっと力が入る。教官は何か必死に言葉をかけてくれているみたいだけれど、もう私には何も聞こえない。

不意に、体が冷たい地面へとそっと降ろされた。

教官は、あの女の子と戦うつもりだ。

だめだ、そんなことしたら……。

そう訴えようとした声も、肺に溜まった血が立てる水音にかき消されて消えていった。

息をするだけでも痛い。

私、このままここで死んでしまうのかな……?

安宅くんが迎えた最期のことなら知っているけれど、あの時、関内くんはどうだったんだろう。

――こんなふうに、冷たい床の上で、苦しくて、痛くて、誰もいない絶望の中で、ひとりで逝ってしまったのかな。

関内くん、怖かったよね。本当にごめんね。

遺された妹さんのことだって、救ってあげられなくて、守ってあげられなくて、ごめんね。

どんどん、体の芯から熱が奪われ、冷えていく。

あぁ、死にたくない……。

いつだって、明日死んだって構わないなんて投げやり思っていたはずなのに。どうして、いまはこんなにも死にたくないんだろう。

なんでだっけ。私、どうしてまだ、死ねないんだっけ――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。