どうしてまだ死ねないんだっけ
桜木教官に名前を呼ばれたような気がしたけれど、耳鳴りと遠ざかる意識のせいでよく聞き取れない。
――えっと、私、どうしてこんなに体が動かないんだっけ。
ぼんやりとした思考の底で、まるで温いお湯に浸かっているかのような気だるさと、腹部と左肩の2箇所をジリジリと焼かれているような激しい痛みが交錯している。
あぁ、そうだ。関内くんの妹に、ナイフで刺されたんだっけ。
桜木教官に、早く逃げてくださいって言わなくちゃいけないのに。
息を吸い込もうとするたびに胸の痛みが跳ね上がり、反射的に生温かい咳がこみ上げてくる。
苦しい……喉の奥が詰まって、何も声が出ない。
関内くん、ごめんね。
あなたの、あんなに大切だった妹さんのことすら、私は止めてあげられない。
桜木教官が私を抱きかかえる腕に、ぎゅっと力が入る。教官は何か必死に言葉をかけてくれているみたいだけれど、もう私には何も聞こえない。
不意に、体が冷たい地面へとそっと降ろされた。
教官は、あの女の子と戦うつもりだ。
だめだ、そんなことしたら……。
そう訴えようとした声も、肺に溜まった血が立てる水音にかき消されて消えていった。
息をするだけでも痛い。
私、このままここで死んでしまうのかな……?
安宅くんが迎えた最期のことなら知っているけれど、あの時、関内くんはどうだったんだろう。
――こんなふうに、冷たい床の上で、苦しくて、痛くて、誰もいない絶望の中で、ひとりで逝ってしまったのかな。
関内くん、怖かったよね。本当にごめんね。
遺された妹さんのことだって、救ってあげられなくて、守ってあげられなくて、ごめんね。
どんどん、体の芯から熱が奪われ、冷えていく。
あぁ、死にたくない……。
いつだって、明日死んだって構わないなんて投げやり思っていたはずなのに。どうして、いまはこんなにも死にたくないんだろう。
なんでだっけ。私、どうしてまだ、死ねないんだっけ――。




