貴方に伝えられるものって何だろう
――やばい、痛い、早く彼女を止めないと死んでしまう。
目の前で歪む少女の影が、ふと、あの日の関内くんの弟の姿と重なって掠れていく。
あぁ……まだ息がある状態で、霊安室代わりにされた冷たい体育館へ運ばれてしまったなんて、どれほど絶望的で、どれほど辛かっただろう。
あの日、彼らがいつも通り窓際の席で朝食をとっていたあの穏やかな朝。もし、私に何の副作用もなく、あの場でもっと動けていたら、彼らを救い出すことができたのだろうか。
「かんない……くん……」
止どまなく溢れる涙が、ボタボタと制服の胸元を濡らしていく。入隊したばかりのぎこちない私に、戦いの中での身体の動かし方を優しく教えてくれたのは、他ならぬ関内くんだった。
『怖くないよ。大丈夫。僕たちがいるから、思い切りやってみて』
班の中では安宅くんと過ごす時間が一番長かったけれど、まるでマイナスイオンを纏っているみたいに優しくて、いつもニコニコと柔らかく笑っていた関内くんと過ごす時間も、すごく多かった。今になって思えば、あの人はずっと、未熟な私のことを人一倍気にかけてくれていたんだ。
訓練中、みんなの前では格好をつけて一人称を「俺」にして、お兄さんと合わせたりしていたくせに、私たち仲間内の前では、つい「僕」に戻ってしまうような人だった。
『小早は神力を多く持っているから、きっと僕より色々な使い方ができるはずだよ。うらやましいなぁ』
そんなふうに、一切のトゲも嫌味もなく、心の底から純粋な笑顔でそう言ってくれた関内くん。
よく、家で待っている妹さんの話をしてくれていたっけ。
『僕たちの妹はね、きっと僕たちよりずっと強い神力を持っているんだ。だから将来は、同じように世の中の人を守るお仕事についてほしいんだよね。正義感が強い僕たちの妹には、絶対にぴったりの仕事だと思うんだ』
――その、お兄ちゃんが大切に誇らしげに語っていた妹が、いま、狂気に満ちた目で私を殺そうとしている。
冷たい刃物が、私の腹部へとさらに深く、めり込んでいくのがわかる。肉が裂け、内臓を焼かれるような激痛に頭が真っ白になる。
こういう時、私はどうすれば正解だったのだろう。
口を開こうにも適切な言葉なんて一つも思い浮かばず、代わりにドロリと血の混じった液体が口から零れ落ちた。
せめて、謝罪の言葉すらまともに伝えられないなら、どう言葉を紡げばいいかすら分からないなら、これだけは絶対に言わなければいけない。
「ごめん、ね……。助けられ、なくて……」
掠れた声で名前を呼び、私は震える両腕で、その細い体を力強く抱きしめた。
喉の奥から溢れる血に邪魔されて、私の言葉はきっと、うまく形にならなくて伝わらなかったかもしれない。
それでも、言わなくちゃいけなかった。
私は、あの地獄の中で、誰かの犠牲の上に命を拾わされた「生かされた側」の人間なのだから。




