壊れた日常
遠い昔の記憶に沈んでいた俺の意識を、目の前の現実へと引き戻すように関が低い声を落とした。
「桜木教官、俺もう戻らないといけないので戻ります。小早にはまだ伝えていません」
「分かった。何かあったら俺から伝えておく」
一礼を残し、関は足早に職場へと戻っていった。小早は現在、出張で大阪にいる。今この事実を伝えれば余計な動揺を誘うだけだ。幸い、今日には帰京する予定だったはずだ。もう少しだけ時間を置き、気持ちの整理がついてから連絡を入れるべきか。非番の静まり返った廊下で、俺は冷たい床の一点を眺めながら、そんなことばかりを考えていた。
脳裏によみがえるのは、あの兄弟の姿だ。俺がかつて見ていた兄の方の関内は、気が強くて短気ではあったが、面倒見が良く、戦い方には圧倒的な勢いがあった。あいつが生きていれば、間違いなく学年5位の成績で卒業していたはずだ。安宅や関、そして小早と並び称されるほどの貴重な人材だった。
弟の方だって、10位以内には確実に食い込むだけの優秀さを備えていた。だが、あの日の戦闘で二人は即死だったと聞かされた。いつも食堂の窓際の席に陣取り、少しばかり鈍臭くて人懐っこい弟の面倒を、兄が呆れたような顔をしながら焼き続けていた光景が鮮明に思い出される。
あの日は、目を眩むほどにいい天気だった。
もしあんな残酷な悲劇が起きなければ、今頃あの兄弟は揃って穏やかな朝を迎え、他愛のない話でもしながら並んで朝食を囲んでいたに違いない。守れなかった命の残骸が、冷たい廊下の影のなかで、静かに俺の胸を締め付け続けていた。




