回顧:俺と中山の原点
バックミラー越しに後続車の影を睨みつけながら、俺は遠い昔の記憶を静かに手繰り寄せた。
「中山と俺と、あと3人で班を組んでいた時期がある。全員同期でな。……仲が良かったんだ」
言葉を紡ぐうちに、自然と声のトーンが和らいでいく。あの頃の馬鹿げた日々を思い出すと、胸の奥が妙に温かくなった。
「班長は司令と参謀も兼ねてた攻撃手。あと援護手専任のやつと、衛生手も兼ねてた援護手。俺は攻撃手専任で、中山は攻撃手と援護手を兼ねていた。俺らは優秀だと言われていてな、各地の基地で訓練をさせてもらっていた」
懐かしい面々の顔が、暗い車内の窓ガラスの向こうにふと浮かぶような気がした。
「俺以外は、各地の隊員と仲良くなっていたようだ。……まあ、俺はお前の知ってる通り、人と群れないからな。だが、あいつらは違った。」
ふっと微苦笑を漏らしながら、さらに記憶の核心へと踏み込んでいく。
「ある日、着任していた基地の管轄区域で、外来危険物体の攻撃があったんだ。それは俺が今まで体験した中で、間違いなく1番激しかった。上から降り注ぐ弾丸、相手の上をとろうにも取れず、ただ防戦一方になった」
「仲間のことなんか気にする余裕のなかった俺は、班長の制止を振り切り、相手の懐に無理やり飛び込んだんだ。自分の命を犠牲にして、あいつらを巻き込んで死んでやろうと……。当時は、軍人は自決用の物を持っていたからな。」
「相手の内部に飲み込まれて、もう今だと思って自決しようとしたら……最初にそんな俺を助けに来たのは、中山だった」
あの瞬間を思い出すと、呆れたような、しかしどうしようもなく愛おしい感情が胸を突く。
「あいつ、俺を見た瞬間に笑っていたんだよ。そして自決とはいかないが、あいつが俺とあいつの体をシールドで保護した上で爆発したんだ」
「それで中山、バカなことに神力を使い果たしてしまって、スイッチが切れたように動かなくなったんだ。シールドは強固で、俺自身、内部から攻撃しても割れなくて……仲間はその爆発で見えた心臓部を狙ってバカスカ撃ってて、俺らは宙に浮いていた」
「中山は、残り少ない神力をシールドにしてしまってな……あいつも、決死の覚悟でやっていたんだろ」
仲間が相手の心臓を破裂させた瞬間、強烈な閃光が光り、次に目が覚めたときには病院のベッドの上だった。
「相手が神力を最後に爆発させて、周りの仲間4人を巻き込んだんだ……」
ポツリと語り終えると、後部座席から関が息を呑む微かな音が聞こえた。追跡車のライトが闇を切り裂く中、俺はかつて命を預け合った相棒の背中を思い出しながら、わずかに目を細めた。
「俺と中山は、あいつの無茶なミラクルによって生き延びた。中山も俺も1週間は目が覚めなくて、気づいたときにはすべてが終わっていた……。中山なんてダメージが大きすぎて、1ヶ月は話すことも起き上がることもできなかったんだ」
過去を思い返すように、俺は淡々と、しかしどこか懐かしむような声で言葉を続ける。
「後になって中山に聞いたんだ。何故、あの時あんな危険な内部まで俺を助けに来たのかと。そしたらあいつ、笑いながら『お前が死のうとしていたから』ってさ。……まったく、こいつには適わねぇって思ったよ」
中山は根っから優しい男だ。だが、その優しさゆえに当時の過酷な現実を深く気に病んでしまい、退院後も半年は病院から出られなかった。
「俺は約1ヶ月で復帰したが、帰るべき班はもうなかった。当時はな、生き残りは不名誉だと蔑まれる時代だったんだ。俺らは行く宛もなくさまよっていて、俺も精神的に参って休職届を出し、半月ばかり実家で燻っていた。その間に退院した中山は、なぜか教官見習いをしていてな。俺もほかに居場所がなくて、教官見習いの手伝いをするはめになった。そうして2人して教官になり、あの地獄の戦争から学んだ教訓を胸に誓い合ったんだ」
中山は「生徒に無理をさせず、個性を伸ばす教官」に。
俺は「とにかく1人でも生き抜く強い生徒を育てる教官」に。
――もう二度と目の前で犠牲は出さない。出させない。そう、互いに誓い合ったはずだったのに。
「……だが、すまなかったな。今回は、沢山の生徒を死なせてしまった。安宅も含めてな」
絞り出すような謝罪の言葉を飲み込んだ瞬間、車がガクリと音を立てて静止した。
「……着いたぞ。降りるぞ、ついてこい」
窓の外には、かつて自分たちが過ごし、原点となった懐かしい建物が静かに佇んでいた。俺は震える足に力を込めると、ぐったりとした小早を背負い、荷物を持たせた関を従えて車を降り立った。




