回顧:恐怖と愛
「関、王子、大丈夫かっ!」
ドアを開け放った車内に飛び込んできた二人に、鋭く声を張り上げる。
「はいっ!」
荒い息を整える間もなく、窓の外では複数の車がエンジン音を唸らせて路肩から動き出すのが見えた。報道陣の車両がすでにこちらを捕捉し、テールランプの赤い光が牙を剥くように後を追ってくる。
「クソ……中山、手負いなんだからお前が自分で運転しろよ」
サイドミラーに映る追跡者の影を睨みつけながら、助手席から後部座席へと指示を飛ばす。
「関、窓のカーテンを閉めろ。後ろも、前もだ」
「――はいっ!」
関が震える手で車内のカーテンを引き絞り、外の喧騒を遮断していく。
車を急発進させ、夜の道路へと滑り出させる。ミラー越しに映る後続車は、飢えた野獣のようにぴったりと距離を詰めてきていた。
「マスゴミめ……。普段から偏った報道ばかり垂れ流しやがって、ろくなもんじゃねぇとは思っていたが……関、お前、さっきはよく耐えたな。怖かったか」
だが、質問を投げかけても関は俯いたまま、ぎゅっと拳を握りしめて黙り込む。妙な沈黙に嫌な予感がよぎり、バックミラー越しにもう一度声をかけた。
「どうした、関」
返ってきたのは、震える声だった。
「……っ、叱らないのですか? いつものように……怒鳴ったり、罰を与えたりしないのですか?」
その言葉に、胸の奥を鈍い刃物でえぐられたような痛みが走る。いつから俺は、生徒に怯えられるような存在になってしまったのか。
「……中山に止められたからな。お前らがまだ入隊したての頃……俺らがまだ中尉だった頃の話、聞いたことあるか?」
「……ないです」
追跡車のヘッドライトが車内を赤く照らし出す中、俺は静かに過去の記憶を紐解き始める。




