回顧:SOS
「っ! 着信?」
穏やかな空気を切り裂くような電子音が響いた。
「相手は?」
「小早だ」
「出た方がいい」
何事だ。嫌な予感が脳裏を過る。
「もしもし……小早?」
中山が受話器を耳に押し当て、わずか数秒でその顔色を青ざめさせた。ハッと息を呑んだかと思うと、苦痛と焦燥に歪んだ険しい顔に変わる。
「桜木、小早たちがマスコミに囲まれてる!」
「なんだと!」
反射的に身構えた俺の隣で、中山は即座に録音ボタンを叩き、スピーカーに切り替えて音声を拾った。受話器の向こうから、鋭いフラッシュの焚かれる音と、下劣な野次馬の喧騒が飛び込んでくる。
『答えられないのは、あなたたちが見捨てたからじゃないのかな?』
『安宅大尉と関中尉は食堂を攻撃された際、中山少佐と共に目の前の敵ではなく宿舎の方の敵の討伐に向かわれたそうですが、あれは敵前逃亡ではないのかな?』
「っ……! 敵前逃亡だと……?」
血の気が引くのを感じながら、歯を食いしばる。事実をねじ曲げ、生き残った子どもたちを悪者に仕立て上げる外道どもの声に、殺意に近い怒りが腹の底から湧き上がってきた。
「桜木……これはまずい。上に連絡する」
「すぐに迎えに行くぞ」
「ああ」
無線を掴み、低く鋭い声を叩き込む。
「こちら桜木と中山。3年A組の王子と、3年B組の関がマスコミに捕まった。今から迎えに行く。広報の対応を頼む」
『――了解。正門に向かわせる』
返答を聞き終えるやいなや、脳裏で最悪の展開を計算する。
「関たちを回収したあとどうする? 確実に尾行されるぞ。基地に戻ったところで、基地の自治内に逃げ込んだと、さらに批判の的にされるだけだ」
「俺の親戚の、例の別荘に逃げ込む。あそこなら……お前なら、あの手のマスコミぐらい振り切れるだろ」
「結構な無茶を言うな」
「やれるか?」
「やるよ」
俺は中山の手から強引に車の鍵を奪い取った。中山は迷うことなく親戚の番号を叩き、手際よく話を付ける。
「もしもし、おばさん。久しぶりだ。ちょっと急用で、今晩から別荘を使わせてもらえないか? ……あぁ、すまない。助かる」
手際よく逃げ道を押さえている間に、車はすでに正門へと滑り込んでいた。その間も、スピーカーの向こうでは、マスコミの心無い追及に対し、震えながらも気丈に抗おうとする小早の声が響き続けていた。




