回顧:日吉教官
「桜木」
「日吉大佐」
「今は教官でいい」
「はい」
「中山は落ち着いたか?」
「耳に入っていましたか」
「それはもちろん」
そう言って、中山を挟んだ反対側の椅子に日吉大佐が腰を下ろす。もうずっと昔に士官学校を卒業したはずなのに、この厳しくも懐かしい教官の姿を見た瞬間、張り詰めていた何かが音を立ててほどけていくのを感じた。
「中山……無理させたな」
「……俺が不甲斐ないからだ」
「桜木は不甲斐なくない。死なずにいてくれてありがとう」
「っ……!」
教官がスッと手を伸ばし、昔、班員だった頃のように俺の両手を温かく包み込むように握り締めた。その大きな手に触れられて初めて、自分の手がどれほど激しく震えていたのかに気づく。
「本当はここに来るまで、2人が生きているか心配だった。最悪の覚悟はしてきていた。亡くなった人がたくさんいる今回の件で、こんなことを言うのは不適切かもしれない。だけど言わせてくれ……生きていてよかった」
そう何度も繰り返し紡がれる言葉に、胸の奥が熱く焼けるような痛みを伴って締め付けられる。教官の変わらぬ温もりと優しさに触れた途端、あふれそうになる感情を抑えきれず、どうしても言葉が詰まって声にならない。あんなにも冷たくて重い絶望の中にいたはずなのに、この人目の前では、どうしてこうも子供のように安心してしまうのだろう。
ベッドは中山の隣へと移してもらい、そのまま横になる。
――俺が居るから。
眠りに落ちていく意識のなかで、隣で点滴の管に繋がれている中山の気配を感じる。なあ、中山。お前に守られてばかりだったけど、今回は俺が隣にいるからな。泥を這うような茨の道だとしても、俺たちは生きて、また並んで歩いていくんだ――そう自分に言い聞かせながら、俺は久しぶりに少しだけ深い安堵に身を委ねて眠りについた。




