耳障り
中山来ないな……。遅刻するなら一言入れろっつーの。
今日は若者の街と言われる所に来ている。だから待ち合わせをしていると甲高い悲鳴のような話し声が耳をつんざく。
中山隊は雑誌に載ったり、広報で使われた影響か、街に行くとよく、「立川基地の桜木中佐ですよね?」と話しかけられるようになってしまった。正直少しめんどくさい。
それと先程からキャッチにキャバクラを勧められているのだが、あいにく興味はない。今日の興味は中山と行くコーヒーだ。
甲高いノイズの中から着信音が聞こえ、携帯を取り出す。
電話? 基地から?
「お疲れ様です。桜木です」
「桜木中佐、今どこだ?」
「外出中です」
「今すぐ帰ってこい。用件は後で伝える!」
「分かりました」
緊急出動か? コーヒーへの未練を残しながら、渋々基地に戻ると
――信じられない現実を告げられた。
中山が、刺された。
「っ……! 何があったのか教えてください……っ!」
動揺を抑えきれない声で問い詰める俺に、対応したスタッフが青い顔のまま早口で返す。
「関内兄弟の妹に刺されたっぽい。一般人だから、手を出さなかったみたいだ……」
関内兄弟――あの日、あの過酷な任務で失った、桜木班の兄と、中山班の弟。その遺族である妹が、なぜ。一般人だからと防衛本能すら抑え、反撃せずに文字通り不意を突かれた中山の姿を想像するだけで、血の気が引いていくのが分かった。
いま、中山は手術室の中だ。どれほど深く刺されたのか、どれだけ出血したのか、中の様子は何も分からない。ドアの向こうから聞こえてくるはずの気配もなく、ただ重苦しい静寂だけが俺の不安を煽り立てる。
――バカなやつだ。いくら相手が一般の子供だからって、どうして……。
拳を強く握り締めすぎて、爪が手のひらに食い込み、痛む。失うはずのない相棒の、失うはずのない命の灯火が今まさに消えそうになっているかもしれないという恐怖が、冷たい水のように全身を這い上がってきた。頼むから生きていてくれよ、中山。――そんな祈りすら口に出せないまま、俺は冷たい手術室の扉の前に立ち尽くすことしかできなかった。




