桜木教官と小早
「小早。」
「桜木教官!」
振り返ると桜木教官が立っていた。
「攻撃手の練習か?」
「はい。ただ難しくて…。」
「何に躓いてる?」
「それも分からなくて…。マンネリ気味だと思って。」
攻撃手の経験は援護手よりは少なくとも最低限のレベルは達している……と思う。ただどうしても桜木教官や関、同じ両刀手の中山教官のように上手く動かせない。
「小早は攻撃手の動きをする時若干体が後ろに引いている。元々性格的にも援護手が得意だろうし、体が上手く運べないのだろうな。」
桜木教官がさりげなく目の前で動きを見せてくれた。神力の所作があまりにも洗練されていて無駄がなく、指先まで息を呑むほど美しい。基地内ではその麗しい身のこなしに密かに憧れる女性隊員も少なくないというが、間近で見るその姿はまさに芸術的だった。
対照的に、関は勢いと派手さで持っていく所がある。こうして見比べると、桜木教官の動きはお手本そのものだ。真似をするように動いてみても、どうしてもどこかぎこちない。
「まあ慣れもあるし、俺とお前とは別の人間だから、動きがぎこちない動きになるのも、思い通りにならないのも当たり前だ。自分の理想とする動きをもっと明確にイメージして練習していけばすぐに上手くなる。」
「ありがとうございます!桜木教官、あの!」
「どうした?」
「なんで士官学校の時に私を班員に選んでくれたのですか?」
少し考える素振りを見せたあと、桜木教官は口を開いた。
「簡単だ。お前の神力のデータを見ていい攻撃手だと思ったからだ。
お前の知っている通り、攻撃手と援護手の神力は種類が違う。そして大抵の人間は片方しか持ち合わせていない。だが両方持ち合わせている人もいる。中山もそうだな。両方持ち合わせている者も実際訓練をしていると、攻撃手と援護手のどちらかに特性が寄っているものだ。だから本当に両刀手としてどちらもできる人間は少ないものだ。
……当時訓練していると小早は俺の言葉に怯えて力を余計に操れなくなっていた。小早の人生で何か萎縮するような事を経験していたのだろう。だが班員1人を可愛がるわけにもいかないし、あの時の俺は厳しく育てる以外のやり方が分からなかった。だから中山に預けたんだ。」
「私そんなに怯えてましたか?」
確かに今思うと本当に怖かったが。
「怯えているというより、とにかく小さくなって危険をやり過ごそうという小動物に見えた。今更だが過去に何かあったのか?」
「…ありました。明光隊覚えてますか?」
「福岡第二のか。よく覚えてる。」
「あの人達、私の中学の先輩なんです。しかも部活の。」
「そうだったのか。」
「私はあの人達の優しさにも期待にも応えられず、何をしても本当に駄目人間で、私は部活を辞めました。その時の記憶が士官1年次はまだ鮮明で、私はまた"何にも出来ない出来損ない"なのだと思ってしまっていました。」
「そうか。」
優しく短く答える桜木教官から目を逸らしながら私は続けた。
「今思うと幻滅されないために、期待なんてされたくない、私を見ないで欲しいと思っていたのかもしれないです。でも今はあの時桜木教官が気づいて私に合う所に連れて行ってくれた事に感謝しています。」
「そんな感謝されることでは無い。本来は俺がきちんと育てるはずが丸投げしただけだからな。」と桜木教官は苦い顔をした。
「もしそうだとしても私は今幸せです。だからこそ中山教官の誘いにすぐ返事が出来ないのかもしれないです。未だに私はいくら結果を残しても自分を出来損ないだと思ってしまいます。だから1番大切な人達に否定されたくなくて一緒にいることを拒んでしまうのかもしれません。」
「いいんじゃないか」と桜木教官は静かに当然のように続ける。
「否定しないとは言えないが、互いに指摘して高みを目指すのが隊の強みだ。中山は小早が教え子だからとか完璧だから欲しいんじゃない。小早だからほしいんだ。」
思わず下を向いた私に、桜木教官はふっと柔らかな目を向けてこう告げた。
「元教官として教え子に優劣をつけてはいけないのだろうが、1人の人間としてお前と戦うのがとてもしっくりくる。だから俺も小早には隊に来て欲しい。」
真っ直ぐだ。その真っ直ぐな想いを受けて、私もちゃんと今後どうしたいのか向き合うと決めた。




