中山隊
「やっぱり大人の色気の桜木中佐よねー!」
「私は関中尉の方が好き!高身長で大人しいイケメンなんて最高じゃない!」
桜木おすすめのカフェの席で、周囲からそんな浮ついた声が聞こえてくる。俺たちは今、軍の広報冊子に掲載されたことをきっかけに、少し離れた席からひそひそと噂されているところだった。
「私達も同じ冊子に載っているのに気付きもされないですね」
隣に座る小早は、ニヤニヤと口元を緩ませながら紅茶を飲んで嬉しそうに微笑んでいる。桜木以外が入れたコーヒーを飲まない小早たちのために、この店は紅茶の美味い店を選んだのだ。
「まあそうだな。桜木は昔からモテる。本人はそういう声が苦手で近づかないがな」
「桜木教官ぽいですね」
「桜木ってさ、人に近づかない割に人の感情をよく読み取るよな」
「そうなんですか……?」
「そう思わないか? 桜木ってさ、厳しく鬼のように思われているけど、如何に本人の能力を伸ばすことが出来るか、どこに預けるべきか考えているなと思うよ」
「それは中山教官の方がやっている印象ですけどね」
小早のその言葉に苦笑しつつ、俺はグラスを傾けた。
「小早が俺の班になったのも元は桜木の提案だしな」
「桜木教官の?」
小早の目が一段と大きくなる。あいつはまだ、あの人事の裏側を詳しく知らない。
「桜木は小早の神力と動きが一致しないと見抜いて厳しく指導したが、小早にはそれが合わなかった。桜木班はとにかくエリートであることを誇りに思い、その誇りと傷とともに生きる班だったな。上手く言えないが、乗り越えることを教えたかったのかな、桜木は。だが小早があまりにも自分の元だと成長しないと感じて、俺の元へ送ったんだ」
「そうだったんですか……」
胸の奥で、桜木の不器用な優しさと痛みが交錯する。その時、足音が近づいてきた。
「すみません、お待たせしました」
「桜木、関、良かった。とりあえず何にする?」
任務を終え合流した桜木と関を交え、俺は息を整えてから、胸に秘めていた本題を切り出した。もうすでに桜木には話してあることだ。
「なあ、いきなり本題に入るぞ。正式に、この4人で班を組もうと思っている」
「班を……」
安宅の不在、かつての明光隊の影が頭をよぎる。安宅は3人で組みたかったはずだ。生きていればそれを望んだだろう。それを分かっているからこそ、この4人で組むことは、小早たちから大切なものを奪ってしまうのではないかという葛藤があった。
「俺は……嬉しいですよ」
「関……」
「俺は教官達と小早と一緒に戦っている時、その時が1番気持ちよく飛べました。俺は4人がいいです」
「そうか。小早は?」
「私は……考えてもいいですか?」
「もちろん」
「なんで……小早」
関が不満げに声を漏らす。
「関、違うの。4人が嫌な訳でもないし居心地がいいのも事実。だけど私は安宅くんの班以外に入るのは抵抗があるの」
「なんだそれ……」
「関、いいから。小早、希望締切は来月1日だ。今月中……あと2週間で決めて欲しい」
「分かりました」
俯く小早の横顔を見つめながら、俺は深い懸念と焦燥を抑え込んだ。トラウマを乗り越え、ようやく空で自由に笑えるようになった小早だが、過去の重さと未来への選択の間で、まだ心は激しく揺らいでいる。とはいえ焦らせるわけにはいかない。俺はこの不安を抱えたまま、ただ静かに彼女の答えを待つしかなかった。




