帰還予定
平尾台の柔らかな風を受けてから、季節は静かに巡り、あれほど激しかった前線は不思議なほど沈黙を保ったまま三ヶ月という時間が過ぎていった。
結局、私たちが眠り続けている間に来た援軍が敵を追い返してくれた。その間に追加の攻撃が来ることはなく、予定していた滞在期間を大きく過ぎた今、私たちが北九州の地を離れて立川へ帰還する日がやってきた。
怪我をした左腕のギプスはとっくに外れているけれど、訓練の時は衝撃でまた折れてしまわないように、そして気持ち的にもプロテクターがまだ外せない。そして心のどこかはまだあの時の激戦の熱をを引きずっている。けれど、それ以上に胸を締め付けるのは、この静かな寮を離れる寂しさだった。
出発の朝、荷物をまとめながら、私はちらりと隣の部屋のほうに目をやった。相原先輩はあの戦いの深い自責から今も立ち直れず、療養のために休職をして寮を離れて彼氏の家で過ごしているからしばらく顔を見ていない。重傷を負った鴨居先輩はいまだに入院したままで、戻ってくることはない。私や関、そして中山教官たちはこうして元の拠点へ戻ることができるのに、明光隊はまだ通夜のような空気だった。
「……行くぞ、小早」
関の穏やかな声に促されて振り返ると、彼は心配そうに私の顔を覗き込んでいた。その優しい瞳に映る私もまた、去りゆくこの場所の痛みを隠しきれずにいるのだろう。
賑やかだった仲間たちの笑い声も、あの日の恐怖も、すべてをこの北九州の寮に置き去りにしたまま、私たちは移動車両へ荷物を運んだ。




