だけ
線香の匂いが鼻腔にこびりついて離れない。
合同葬儀を終え、漆黒の闇に包まれた立川士官学校の敷地内を、俺は重い足取りで進んでいた。
左腕の切り傷は数針縫った程度で済んだが、車椅子を押すたびに鈍い痛みが走る。だが、そんな痛みはどうでもよかった。
車椅子に座る桜木の背中は、記憶にあるどの姿よりも小さく、そして幽霊のように生気がなかった。
頭部と腹部に負った深い傷のせいで、あいつは座っていることすらやっとの状態だ。包帯の間から覗く顔はシーツのように白く、視線は虚空を彷徨っている。
「……中山。小早だけは、生き残ってくれたんだな」
静寂を切り裂くような桜木の掠れた声が、夜の冷気に溶けていく。
瓦礫の下で帰らぬ人となった。 俺の指示が、彼らの未来を奪ったんだ。
「……ああ。桜木、お前のところも……関だけは生き残ってくれたな」
俺の言葉に、桜木は痛みに耐えるように一度強く目を閉じた。
桜木の班もまた、首席の関を除いた全員が、あの平和だったはずの食堂や激戦の空で散っていった。 関内(兄)も、あの日窓際の席で笑い合っていた教え子たちも、今はもう冷たい棺の中だ。
「だけ」。
その二文字が、毒のように俺たちの心臓を侵食していく。
三年生の八割、教官の三割が戦死したというこの大打撃の中で、自分たちの班からたった一人の生徒だけでも残せたことは、救いなのだろうか。 それとも、他の子らを見捨ててしまったという、逃れられない「呪い」の始まりなのだろうか。
かつて、俺と桜木は五人班のなかで「二人だけ」が生き残った過去がある。
そして今、再び俺たちは、教え子の一人だけを道連れにして、また生き残ってしまった。
安宅、関内、みんな……すまない。俺がもっと早く起きていれば。俺がもっと強ければ、お前たちの隣に並んで守ってあげられたのに……もっと戦えたのに……
車椅子の手すりを握る俺の指が、左腕の傷を庇うように震える。
俺は痛みを堪え、相棒が乗る車椅子を力一杯押し出し、暗い校舎へと戻っていった。




