合同葬儀
夜の闇に沈んだ立川士官学校の校庭には、無数の提灯と、それを遥かに凌駕する数の棺が並んでいた。
冷たい風が線香の匂いを運び、鼻腔を突く鉄の残り香を無理やりかき消そうとしている。だが、俺の目には、白い布に覆われたそれら一つひとつが、かつて教室で笑い、訓練場で汗を流していた教え子たちの姿として焼き付いて離れなかった。
「……中山、行くぞ」
桜木が低く、震える声を出した。
あの日、頭部と腹部に深い傷を負い、死の淵から這い上がったばかりのあいつは、無理を押して車椅子に揺られている。顔色はシーツのように白く、膝に置かれた拳は、溢れ出しそうな自責の念を抑え込むように強く握りしめられていた。
祭壇に並ぶ遺影を見上げるたび、内臓を素手で掴まれるような戦慄が走る。
全国から精鋭が集まるこの立川は、軍の未来そのものだった。ここにいるのは、ただの学生ではない。数年後には国を背負って立つはずだった「最高傑作」たちの成れの果てだった。
3年生は8割が命を落とした。
あの日、彼らは卒業試験の結果発表を心待ちにして食堂に集まっていた。翌月には各基地への配属が決まる予定で、希望に満ちた翼を広げるはずだった若者たちが、食事の香りと共に瓦礫の下に消えた。
安宅も、関内兄弟も……俺たちが手塩にかけて育てた「槍」も「盾」も、一度も実戦の空を舞うことなく、折れた羽となって箱に詰められている。
2年生は5割。
先輩たちの背中を追い、ようやく神力の扱いに慣れ始めていた彼らも、逃げ惑う暇もなく衝撃波に飲み込まれた。
そして、最も残酷だったのは1年生だ。9割が死亡した。
寮への容赦ない攻撃。まだ神力の展開すら覚束ない、実戦経験など皆無の子供たちが、何をされているかも分からぬまま焼き殺され、あるいは実力不足ゆえに抗う術もなく屠られた。 防御膜の一枚も張れず、泣きながら親の名を呼んで息絶えた彼らの姿を思うと、指導官としての無能さを呪わずにはいられない。
俺たちが職員寮で仮眠をとっていた、あのわずかな「遅れ」が、この国の至宝をこれほどまでに失わせたのだ。
「中山……お前、手が震えてるぞ」
車椅子の桜木が、俺の震える指先を鋭く見抜いた。
「……あぁ。寒さのせいだ」
軍としても、これほどの損失は数十年単位の停滞を意味するだろう。だが、そんな組織の損失以上に、俺の胸を抉るのは、冷たくなった彼らの体温だ。
一人ひとりの遺体を確認した時の、あの指先に残る氷のような感触。 なぜこの子たちが死ななければならなかったのか。
線香の煙が目に沁みる。
隣で車椅子に座る桜木の傷口から、また血が滲んでいるのが見えた。あいつも、俺も、関も小早も、生き残ってしまった者は全員、あの日からずっと、この広大な墓標の一部になったまま、一歩も外へ出られずにいる。
暗闇の中、泣き崩れる遺族たちの悲鳴が、夜の立川にどこまでも、どこまでも響き渡っていた。




