鴨居先輩の本音
「南野っ! 神力を――止血を!」
墜落した彼女を受け止め、文字通り崩れ落ちた私の元へ、全速力で駆けつけた南野が青ざめた顔で飛び込んできた。震える両手を鴨居先輩の抉られた胸元にあてがい、必死に治癒の神力を流し込もうとする。けれど、とめどなく溢れ出る鮮血は南野の神力を嘲笑うかのように、白い手袋と衣服をみるみるうちに紅く染め上げていく。
止まらない。血の海の中で、生命の光がみるみるすり抜けていくのがわかった。
「はっ……、はぁ……っ……」
ぐっと目を見開き、浅く掠れた呼吸を繰り返す鴨居先輩の瞳が、かすかに揺れて私を捉えた。その冷たくなっていく指先が、力なく宙を彷徨い、そして私の袖口を弱々しく掴む。
「……桜花……は、……大丈夫……?」
自分自身がこんなにも致命的な重傷を負って、死の淵にいるというのに。先輩は掠れた声で、相原先輩の無事を気遣うようにそう呟いた。胸の奥が引き裂かれるような痛みに襲われ、私は息ができなかった。
「相原先輩は、平気です……!関が助けにいきました! だから喋らないで、お願いですから……!」
必死に涙をこらえながら叫ぶ私に、鴨居先輩は苦しげに唇を歪め、ふっと自嘲するような、けれどどこか隠しきれない本音を絞り出した。
「桜花が無事……なら、それ……で。桜花だけは……守ら……なきゃ……ね。……っ……ごめん……。私、……小早のこと、ずっと……嫌いだった……」
分かっていた。頭のどこかでは、ずっと前から……中学時代から気づいていたことだった。私の存在が、先輩の築いた日常や、誰よりも大切なものへの想いを脅かしていたのだから。
「知っていましたよ、ずっと」
私は震える声で、ただそう返すのが精一杯だった。嫌われていたことなんて、最初から知っていた。それでも、こんな形で、相原先輩のために身を挺して傷ついた先輩を抱きしめることになるとは思っていなかった。




