包囲と崩壊
耳を裂くような爆音と、無線越しに飛び込んできた悲鳴で、私たちの背筋が一気に凍りついた。
「――包囲された!? 持ちこたえられない、数多すぎ――っ!」
この声は相原先輩――!?
反射的に視線を向けたその先で、黒煙と敵の群れに飲み込まれようとしている味方の陣形が見えた。明光隊だ。昨日、あんなにボロボロになりながらも気丈に踏み留まろうとしていた先輩たちの姿が脳裏に焼き付いている。
「行くぞ!」
中山隊長の短い号令を待つまでもなく、私たちは全速力でその場へと駆け出した。
距離を詰める。しかし、敵の包囲網はあまりにも厚く、硬い。異常なまでの物量と猛攻の前に、私たちの攻撃ですら容易には引き剥がせない。
「くそっ、間に合わない……!」
関が歯噛みする音が聞こえた。焦燥が頭を殴りつけるように心をかき乱す。
「関!小早!こっちは何とかするから先に援護を!」中山教官の指示で、関、そして私――何とかしてあの包囲の渦中に飛び込もうと必死に回路を焼き付けるように跳躍したが、目の前でうねる敵の弾幕と圧倒的な壁が私たちの突入を弾き返す。
間に合わない。足が、手が、一歩届かない。頭の奥で嫌な予感が激しく鳴り響く。行かないで、これ以上誰かが壊れていくのは見たくない。
「相原先輩――っ!!」
夏純の絶叫が響いた。視線の先、絶望的な距離の向こうで、退路を断たれた相原先輩目がけて敵の攻撃が降り注がれるのが見えた。
その瞬間。
誰よりも強いプライドと、誰よりも激しい拒絶を私に向けていたはずの影が、自ら前へと飛び出した。
「李子……っ!」
相原先輩を押し飛ばし、その身をもって致命的な一撃を代償にしたのは、鴨居先輩だった。
メキメキと装甲と肉体が引き裂かれるような悍ましい音が、この距離まで響いてくる。人間が発していい音ではない。防壁が弾け飛び、血飛沫が空中に舞った。
「あ……あっ……」
声にならない声が出た次の瞬間、鴨居先輩の機体は、まるで糸の切れた操り人形のように重力を失って急激に墜落していく。
「――鴨居先輩っ!!」
思考するよりも早く、私の身体が勝手に動いていた。血を吐き出しながら落下していくその小さな影を追いかけ、私は限界を超えた神力を全開にして宙を蹴る。
地面に激突するほんの一瞬の差だった。私はどうにか腕を伸ばし、落下する鴨居先輩の体を両腕で抱き止めた。
「はっ……はぁっ、……っ!」
腕の中に伝わる感触に、血の気が完全に引いていく。軽いどころではない。尋常ではない量の温かい液体が私の手袋と制服を濡らし、噎せ返るような鉄生臭い匂いが鼻を突く。胸部から腹部にかけて抉られたような傷からは、とめどなく鮮血が溢れ出し、抑えても抑えても手の隙間から零れ落ち続ける。
明らかに関の回路も、私の気力も超えた、取り返しのつかない致命的な重症だった。
眼を見開き、浅く掠れた呼吸を繰り返す鴨居先輩の瞳には、すでに焦点が定まりかけている。




