ずっと嫌いだった
前線での惨憺たる敗北と無力感に打ちのめされ、私たちは重苦しい空気の漂うテントの中でただ息を潜めていた。怪我の痛み以上に、中山隊の圧倒的な活躍と引き換えに自分たちが晒した醜態が、胸を焼き焦がすように痛い。私たちがどれだけ足掻こうとも、小早が抜けた穴すらまともに埋められず、ただ消耗して退がるしかなかったという現実が許せなかった。
――なんであいつは、いつもこうやって私たちの平穏や絆をめちゃくちゃにかき乱していくんだ。
もともと、小早の存在そのものが嫌いだった。いつだって周囲の目を引き、私の作り上げてきた仲間の輪や人間関係のバランスを無意識に、けれど軽々と崩していく。そのうえ、あいつは……私が誰よりも大切に想いっている(相原)桜花の視線を、かつては当然のように独占していた。桜花が小早に向ける優しい眼差しを見るたび、胸の奥底でドス黒い嫉妬と怒りが沸き返るのを抑えられなかった。
そんな苦しい胸の内を誰にも見せまいと奥で歯噛みしていた時、ひときわ軽やかな、けれど忌々しい足音がテントの入り口へと近づいてきた。
幕がそっと持ち上がり、顔を覗かせたのは他でもない小早だった。
ふらふらとした足取りでありながら、その顔には私たちを品定めするような、あるいは哀れむような「心配の色」が張り付いていた。
「……みなさん、お疲れ様です」
その声が響いた瞬間、テント内の空気がピクリと凍りついた。紫陽や菊名が息を呑み、言葉を失ったようにあいつを見上げる。
ふざけるな、と思った。
何なんだ、その顔は。自分たちが中山隊でちやほやされ、圧倒的な戦果を上げて万全の調子で戻ってきたくせに、どうしてボロボロになった私たちをそんな上から目線の同情心で見下ろせるのか。
「小早……あんな戦闘をして、まだ動けるんだ。」
誰かがかすれた声で呟く。その惨めな姿に、私のなかの沸点は一気に跳ね上がった。
「はい。神力は確かに不足していて眠気はありますが、まだ私は大丈夫ですので……。その、みなさん、怪我は……」
心配して声をかけてくるその薄っぺらな善意が、余計に私たちのプライドをズタズタに切り裂く。もう我慢の限界だった。私はガタッと激しい音を立てて椅子から立ち上がり、赤く腫れた目を剥き出しにしてあいつをまっすぐに見据えた。
「……っ、そんな心配そうな顔しないでよ!」
尖った声が狭いテントの中に暴力的に響き渡る。自分たちの無力さに対する情けなさと、あいつに対して抱いてしまったどうしようもない劣等感が、ドロドロとした言葉になって喉から逆流してきた。
「私たちがどうなろうと勝手でしょ! あんたはもうあっち――『中山隊』の主力なんだから、私たちのことなんか気にしないでさっさと自分の隊に戻りなよ!」
吐き捨てるようにそう叫んだ。
あいつのせいで狂わされた私の日常も、相原先輩の隣から引き剥がされた悔しさも、すべてをぶつけるように放ったその言葉で、テントの中の空気は完全に凍りついた。
「李子」
すぐ傍で、桜花が私を制止するように、低く咎めるような名前を呼んだ。
紫陽や他のメンバーも気まずそうに目を伏せ、居たたまれない沈黙が場を支配する。
小早は私たちの反応をまともに受け止め、胸を痛めるような、まるで自分がすべてを壊したと言わんばかりの情けない顔をした。その表情を見て、胸の奥がわずかにチクリと痛んだが、すぐにそれを冷たい優越感と激しい自己嫌悪がかき消していく。
「……すみません」
小早はそれだけ呟くと、小さく頭を下げて、すごすごと自分のテントへと引き返していった。
去っていくその小さな背中を見送りながら、私は震える拳を強く握り締め、自分の不甲斐なさにただ奥歯を噛みしめることしかできなかった。




