ずっと昔に別れていた道
前線からの帰り際、なんとなく気になって明光隊のテントへと足を向けていた。誰か怪我をしたり、下手したら命を落としたりしていないだろうか。そんな不安が胸の内にまとわりつく。まだ少し頭の奥が重く、気の緩みからか身体はどこかふわふわと浮いているような感覚があったけれど、それでも神力切れの動けない状態に比べれば何てことはない。
テントの幕をそっと持ち上げて中を覗き込むと、そこには傷の手当てを受けたり、ぐったりと項垂れたりしている明光隊の面々がいた。菊名先輩や片倉先輩、そして奥で歯噛みしている鴨居先輩の姿もある。誰もが昨日までの激戦の疲労と、拭いきれない焦燥感に満ちた顔をしていた。
――良かった、とりあえず全員生きている。体の欠損もなさそうだ。
「……みなさん、お疲れ様です」
私が声をかけると、テント内の空気がピクリと揺らぎ、数人の視線が一斉にこちらへと向けられた。その瞬間、片倉先輩が息を呑むのが分かった。潤んだ瞳でこちらを見つめるその視線には、驚きと、どこか痛々しいほどの複雑な感情が混ざっている。菊名先輩も、普段の余裕のある笑みを引っ込めたまま、言葉を失ったように私を見上げていた。
「小早……あんな戦闘をして、まだ動けるんだ」
誰かがかすれた声で呟く。その表情は、心配してくれているのか、それとも今の自分たちの惨めさと比較して気まずいのか、ひどく強張っていた。
「はい。神力は確かに不足していて眠気はありますが、まだ私は大丈夫ですので……。その、みなさん、怪我は……」
私が心配してそう言いかけた時、ピリッとした空気を切り裂くように、鴨居先輩がガタッと音を立てて立ち上がった。その目は少し赤く腫れていて、私をまっすぐに見据えている。
「……っ、そんな心配そうな顔しないでよ!」
尖った声がテントの中に響く。その声には怒気というよりも、自分たちの無力さに対する悔しさと、私に対して抱いてしまった複雑な劣等感が痛いほどに滲んでいた。
「私たちがどうなろうと勝手でしょ! あんたはもうあっち――『中山隊』の主力なんだから、私たちのことなんか気にしないでさっさと自分の隊に戻りなよ!」
そう吐き捨てるように言って、鴨居先輩は勢いよく顔をそむけてしまった。その言葉に、テントの中の空気がさらに凍りつく。
「李子」
と、咎めるように相原先輩が鴨居先輩の名前を呼ぶ。
片倉先輩や他のメンバーも、気まり悪そうに目を伏せた。
私は、そんな彼女たちの反応を目の当たりにして、胸の奥がキュッと締め付けられるような痛みを覚えた。
――そうだ。私はもう、あの場所にはいない。いや、中学時代に自分で捨てたんじゃないか。今の私たちがいる場所はずっと昔に決定的に違ってしまっているんだった。
「……すみません」
それ以上何かを言えば、彼女たちのプライドをさらに傷つけてしまうことだけは分かった。私は小さく頭を下げると、それ以上踏み込むことができぬまま、重い足取りで自分のテントへと引き返すしかなかった。




