こんなにも脆い
司令部から届けられる連日の戦果報告は、耳を疑うほど異様だった。
「中山隊」の快進撃が止まらない。初日の圧倒的な制圧劇を皮切りに、敵の主力を次々と正確無比に屠り、九州全域の防衛戦において彼らの周辺だけが突出して優勢を維持し続けている。
とりわけ目を引くのは、かつて天照隊から出戻ってきた関中尉の奮戦だった。関中尉は天照隊に除隊され、その経歴や気性の難しさから周囲の印象は最悪に近かったはずだ。だが、今の関中尉にはかつての陰りなど微塵もない。小早や中山中佐、桜木中佐と完全に噛み合った連携で敵陣を圧倒し、あの悪評を完全に覆しどころか、いまや軍全体から「なくてはならない主力」として賛美の目が向けられていた。
その一方で、私たち明光隊の有様は目を覆いたくなるほど対照的だった。
中山隊の鮮烈な活躍の陰で、私たち明光隊は防衛線の維持に必死にしがみついている状態だった。いや、正確に言えば、しがみつくことすら出来ていない。
原因は明白だった。かつて私たちの隊で遊軍のように動き、その強大な神力と驚異的な視野で戦況を回し、疲弊した味方を絶妙なタイミングでサポートし続けてくれていた小早が、いまは中山隊にいる。
小早という「要」が抜けた穴は、想像を絶するほど大きかった。
小早はあくまでも補助的な立場であったはずなのに、いつの間にか欠かせない人になっていた。
前線で突出しがちな隊員が危うくなっても、誰もその軌道修正やフォローが入れられない。結果として各自が余計な神力を浪費し、ものの数時間で回路が焼き切れて枯渇し、そのまま戦線離脱を余儀なくされる者が続出した。前線を維持できず、敵の猛攻の前に下がりきれぬまま被弾し、軽微ながらも負傷者が相次いでいる。かつては小早のサポートを前提として成り立っていた戦術が、彼女が不在になった途端に音を立てて崩壊していたのだ。
「……私たちが、これほど脆かったなんて」
テントの隅、治療を終えた隊員たちの重苦しい沈黙を切り裂くように、菊名が歯噛みするような声を漏らした。その表情には、悔しさと、埋めがたい実力差を突きつけられた絶望が色濃く滲んでいる。
今日一番被弾し、身体中に軽い出血を伴う怪我をした自分に対して菊名は言っていそうだった。
別のベッドの端では、(片倉)紫陽たちが血の気の引いた顔で俯いていた。誰もが痛感していた。小早が居なくなった途端、自分たちはこれほどまでに戦闘で役に立たず、足手まといに等しい存在だったのだと。他部隊の圧倒的な成果が耳に入るたび、その無力感が重くのしかかり、隊全体の士気は底まで落ち込んでいた。
「そんなことない……! 私たちだって、場数を踏んで経験を積めば、もっともっとやれる……!」
その張り詰めた空気の中、(鴨居)李子がひときわ大きな声を張り上げた。目に涙をにじませながら、しかし必死に気丈に反発するように言い放つ。だが、その声の震えが、彼女自身の焦りと、拭い去れない現実への恐怖を隠しきれていなかった。誰もが「小早がいなければ戦えない」という事実を頭のどこかで理解し始めており、鴨居の言葉も空虚な強がりとしてテントの中に虚しく響くだけだった。
司令部からの無線が再び鳴り響く。中山隊のさらなる戦果を告げるその無機質な電子音を聞きながら、私はテントの柱にもたれかかり、どうしようもない無力感に歯噛みするしかなかった。




