雪待草
「出撃だ。体調はどうだ?」
重苦しい静寂が漂う待機室で、俺は三人に声をかけた。
「大丈夫だ」
いつもの調子を崩さない桜木。
「大丈夫です!」
底抜けにやる気満々な関。
「……大丈夫です」
どこか表情を引き締め、かすかに緊張の色を滲ませる小早。
一人ひとりの顔を見据え、十分に返答が返ってきたことを確認して息を吐く。うん、これなら大丈夫そうだ。
「よし、気合を入れて頑張ろう!」
俺がそう声をかけると、隊員たちはそれぞれの武器をしっかりと握りしめた。
出発の準備を整えて廊下に出ると、「おはようございます」と相原軍曹が引き締まった表情で声をかけてきた。
「おはようございます。お互いに、必ず無事に帰ってきましょう」
「はいっ!」
背後に控える明光隊の面々も、これから始まる数百体規模の襲撃を前に、酷く張り詰めた面持ちでこちらを見据えている。
ふと、隣に立っていた小早が、自分の制服に縫い付けられた『中山隊』のワッペンをじっと凝視しているのに気づいた。
「小早、どうした?」
「……これ、は、なんの花ですか?」
現代の軍服のワッペンに花柄が使われることは珍しい。戦場において「花は散る」という連想は縁起が悪いとされ、好んで選ばれるモチーフではないからだ。だが、この図案だけは特別だった。
「スノードロップ――雪待草だよ。……なぜこれを選んだのかは、今は教えない」
「ええーっ」
不満そうに声を上げる小早に、俺は小さく笑って返した。
「そのうち教えてやるよ」
スノードロップ。その花言葉は、『逆境の時の希望』『もしもの時の友』『希望』『慰め』。
俺らにピッタリだ。
それにこれから待ち受ける凄惨な戦場にこそ相応しいと、俺が密かに選んだものだ。
そんな、どうでもいいような、しかしほんのわずかに緊迫した空気を和らげる雑談をしているうちに、車輌は任務の本部へと到着した。基地の外に広がる空は鉛色に淀み、幾重もの敵影が押し寄せる前兆を嫌でも意識させる。俺たちは無言で車を降り、それぞれの戦地へと足を踏み入れた。




