福岡へ
「福岡第一、第二は可哀想だな」
「一年のうちに二度も大規模攻撃を受けるなんて、転出が一気に増えるだろうし損害の大きさは計り知れないな」
周囲の兵士たちのそんな重苦しい噂話を聞き流しながら、私は冷たい廊下を歩いていた。
先ほど大佐に呼び出された。そこで告げられたのは、以前と同様に、再び福岡第二基地の管轄内において大規模侵攻の予兆が確認されたという非情な現実だった。数百体規模に及ぶであろう今回の戦闘でも、軍全体の被害は決して少なくないはずだ。
当然、福岡本部や近隣の広島、大阪からも援軍が向かう。だが、各基地の防衛網を維持するため留守番の人員も確保しなければならない。その結果、遠く離れた八王子本部や立川基地からも、臨時の増援を派遣せざるを得ない事態となった。
特に我が中山隊においては、現在すでに小早と関が現地へ派遣されているという状況を鑑み、今回は私と桜木の二人が、数ヶ月に及ぶ長期の現地出張を命じられた。
すると、背後から足音が近づいてくる。
「中山、今回はお前が隊長で俺が副隊長、それに小早と関を加えた四人か。……実に珍しい組み合わせだな」
振り返ると、桜木が普段通りの不敵な笑みを浮かべて声をかけてきた。
「ああ、間違いないな。明光隊はあくまで自分たちの力で一隊として結果を残したいという意向があると、小早から聞いていたがね」
「なるほどな。だが、本当に大丈夫なのか? そもそもあの二人は戦力補強のために送り出されたんだろう?」
「向こうの隊の自立心を尊重してやりたいし、第一、あの二人がいつまでもあそこに居続けるわけではないからな」
「なるほどな。……でもよ、荷物はもう作ったか?」
「まだだ。桜木は?」
「俺もまだこれからだ。出発は明日の朝だし、それまでに片付けなければならない書類が山積みで気が狂いそうだ」
「また明日な」と短く言葉を交わし、私は自室へと戻った。
いつ戦闘が始まり、いつ終わるのか——何日続くかも予測がつかない。衣類は少なくとも五日分あれば充分だろう。現地で洗濯する手間も省けるし、そもそもそんな余裕すら与えられないほどの激戦になるかもしれない。
私はデスクに向かい、立川の正式な隊服に、先ほど支給されたばかりの『中山隊』の新しいワッペンを縫い付ける。
そういえば、あの二人は今回、一時的に再び「中山隊」の枠組みとして戦うことになる。小早が立川の正式な所属章を身につけるのは、あの悪夢のような襲撃以来のことだ。関の分の書類手続きはないが、現地の明光隊の連中は今頃極限の緊張状態に置かれているはずだ。あの二人にしても、戦闘補佐としての重圧やフラストレーションが相当溜まっているに違いない。
……何か、あいつらの好きなものでも差し入れに買ってやるか。
準備をそこそこに、私は息抜きを兼ねて基地内の売店へと足を向けた。甘味でも買い込んで戻る途中、背後に妙な気配を感じた。
誰かが後ろを尾行している? それとも、ただ方向が同じだっただけの偶然か。
疑念を抱きながら歩調を緩めると、気配もそのまま基地の入り口近くまでついてくる。これは――意図的なものだ。
急に足を止め、素早く振り返る。
すると、暗がりの中で慌てた小さな人影が、物陰へと身を隠した。




