関の副作用
朝、関から連絡が入ったのは、任務の合間のことだった。副作用でダウンしているらしい。念のため関を含めた数人は福岡第一、第二基地に残っており、私が任務を終えて戻る再来月のあたりまでそこに逗留するそうだ。副作用で休む旨は相原先輩への連絡は済ませているようだし、その点については大丈夫だと思いたい。
「あ……夏純。どうした?」
ふと顔を上げると、そこに夏純が立っていた。
「関中尉に届けようと思って……」
その声はいつもよりどこか硬く、わずかに強張っていた。この前、鴨居先輩が私の昔のこと――部活をやめた理由の一つに夏純の存在があったことを、よけいな形で話してしまったらしい。確かに事実の一端ではあるけれど、あの人の言い方はどうしたって語弊を生みかねない。案の定、夏純はその日からあからさまに私を避け、明らかに警戒しているのがその低い声色だけでも痛いほど分かった。これ以上この子と関わるのは気まずい。
「関は副作用の時、かなり機嫌が悪いから近づかない方がいいよ。私がやっておくから」
私は気まずい空気から逃げるように、そう言って夏純の手からお盆をさっと取り上げた。夏純の困惑した視線を背に受けながら、重い足取りで関の部屋の扉を叩いて中に入る。
「ぐっ……、こは……や……」
部屋の奥、布団に潜り込んだ関は、苦しげに唸り声を漏らしていた。まるで深く傷ついた手負いの獣のようだ。昔、安宅君が「副作用中の関に面白半分で構いすぎて、烈火のごとくキレられた」と笑いながら話していたのを思い出す。もしあのまま夏純を部屋に入れていたら、彼女は怯えるほどの剣幕で当たり散らされていたかもしれない。そうならなくて本当に良かったと心底胸をなで下ろす。
「無理しないで寝てなよ。声出すのも辛いでしょ。夏純が届けてくれたから、ここに置いておくよ。昼はいらないなら、早めに連絡してあげてね」
私が声をかけると、関は苦しそうに小さく頷き、再び布団のなかに身を沈めた。
冷蔵庫から冷えた水を取り出して枕元に置き、ついでに衣装ケースから予備のタオルを引き出して手の届く位置に整える。これだけの備えがあれば、昼まで目を離して放置しても当面は大丈夫なはずだ。
――どうか、早くその激しい倦怠感が引きますように。私は苦しげな寝息を立てる先輩の背中にそっと視線を向け、静かに部屋をあとにするのだった。




