菊名先輩と関
「お疲れ」
放り投げられたペットボトルを右手でキャッチすると、目の前にはどこか勝ち誇ったような顔をした関が立っていた。
「……むかつくな、その顔」
「口に出てるぞ」
「あと一歩でいいところまで追い詰めたのに」
「まぁ、攻撃手の経験値としては俺の方がまだ上だからな」
悔しげに唇を噛み締めると、関は私の隣に腰を下ろし、手元のタブレットに記録された先ほどの模擬戦のデータ画面を覗き込んだ。
「……にしても、最後の一撃、少し動き出しが遅かったな。相手の出方でも様子見したか?」
「うん。……確実に当たる自信がなかったのと、万が一の反撃を完全に防ぐことばかり意識しちゃって、タイミングがワンテンポ遅れた」
「だよな。攻撃手としての身体能力やパワーは十分すぎるほどあるけど……お前、とっさの時に『援護手』の動きをしてしまう癖がまだ抜けてないんだな」
「……言われてみれば、確かにそうかも」
自分の無意識の癖を指摘され、小さく息を吐き出す。
二人で並んで画面の数値を分析していると、不意に背後から明るい声が降ってきた。
「関中尉、私にもそれ見せて!」
「――菊名先輩!?」
「あぁ、いいですよ」
他の明光隊隊員には少し厳しめなのに、菊名先輩の言葉には即座に笑顔でデータを差し出す関。……おいおい、いつの間にそんなに仲良くなったんだと心の中で軽くツッコミを入れながら、私はその様子を眺めていた。
菊名先輩は差し出されたタブレットの画面を真剣な表情でじっと見つめ、一文字一文字を目に焼き付けるように確認していく。そして、すべてを読み終えると、ふっと満足げな笑みを浮かべた。
「ありがと! 助かった!」
それだけ言い残すと、先輩は軽やかな足取りでさっさと去っていってしまった。……一体、何がしたかったんだろう。
去っていく背中を見送りながら、私は首を傾げつつ、再び手元の記録データへと視線を戻した。




