深夜の反省会
「今回の戦闘って、どれぐらい難しかった?」
相原先輩がノートから目を上げ、静かに尋ねてきた。
「今回は……もしかしたら、今まで交戦した中で一番簡単だったかもしれません。相手の弾筋も大きく乱れていましたし、攻撃の威力が弱く、攻めるというより逃げ腰に見えましたから」
「簡単なのに……李子は落ちかけたってこと?」
菊名先輩が眉をひそめ、率直な疑問を口にする。菊名先輩は、いつも本当に正直だ。
「あの時も言いましたけど、敵が強いから落ちる、弱いから助かる……というわけではないんです。どれほど相手が弱くても、初陣特有の経験不足による落下率は非常に高い。……だからこそ、私たちのような戦闘補佐隊が、経験の浅い民兵の多い地方基地へ派遣されるわけですし」
淡々と事実を述べる私を、二人はじっと見つめていた。やがて菊名先輩が、どこか慎重な面持ちで問いかけてくる。
「ねぇ……小早の中で、一番キツかった戦闘っていつ?」
「……立川士官学校の時の、ですかね」
ぽつりと漏らした私の言葉に、菊名先輩がハッとして「しまった」という顔をした。触れてはいけない傷口に触れてしまったと後悔しているのが、痛いほど伝わってくる。
「あの時の話、まだ先輩たちにしてませんでしたよね。……あまり参考になるかは分かりませんけど、聞きたいですか?」
「……小早が、辛くないなら」
辛くないわけがない。思い出そうとするだけで、胸の奥が冷たく締め付けられる。
けれど……今の私にとっては、己のトラウマを守ることよりも、実戦の冷酷な経験をこの二人に伝えることの方がずっと優先事項だった。
二人はいつにも増して真剣な、どこか息を呑むような表情で私の言葉に耳を傾けてくれた。いや……世間を激震させたあの有名な『立川の悲劇』が、目の前にいる後輩の壮絶な体験談なのだと突きつけられ、ショックで固まっていただけなのかもしれない。
「私と関は……彼の死に物狂いの援護があったからこそ、生き延びることができました。けれど、彼は……あそこで亡くなりました」
「……」
「話してくれて、ありがとう……小早」
震える声でそう言ってくれた二人に、私は静かに首を横に振った。
「いいえ。……彼は、士官学校で首席を取るほどの頭脳と、圧倒的な援護技術を持っていました。私なんて、未だに彼に並ぶような兵士になれたとは到底思えません。……それほどの天才でさえ、一瞬で命を落とすのが戦場です。どれだけ優秀でも、最後は『運』が生死を左右する瞬間がある。……あの事件は、その最たる例なんです」
言葉を失い、深く下を向いて黙り込んでしまった二人。重苦しい沈黙が、静まり返ったキッチンを包み込む。
私は努めて穏やかな声を作り、二人の顔を見つめた。
「ですが……経験の浅いこの隊で、今回は誰も死なずに済んだ。それが、今日一番の報酬だと思います。だから……反省すべきところはしっかり反省して、あとは前を見ましょう。明光隊の連帯感は、他のどの部隊にも負けないはずです。それを最大限に活かせるよう、明日からまた一緒に作戦を考えましょう」
そう言って、私は微笑んでみせた。
……まるで、他人事みたいだな。
胸の奥に冷たい風が吹き抜けるのを感じながら、私は己の輪郭を確かめるように心の中で呟いていた。
私……今、ちゃんと上手く笑えているのかな。




