危ない
関を中心とした攻撃陣形が綺麗にハマり、無事にもう一体を撃破した。前線の消費を最小限に抑えられているおかげで、隊員の神力はまだ十分に余裕がある。
さらにもう一体の敵へ追い打ちをかけていた、その一瞬だった。
「ちっ……しくった!」
関の苦々しい叫びと同時に、左翼から鈍い衝撃音が上がった。
「いった……!」
「相原先輩、大丈夫ですか!?」
「ごめん、ちょっとかすっただけ……って、李子!?」
相原先輩の声に被さるように、鴨居先輩が弾かれたように突進していくのが見えた。関より前に出るその位置は、敵の集中砲火を正面から浴びる死角だ。防御の薄い今の先輩の神力量では、直撃を受ければ確実に討ち取られる。
——死ぬ気……っ!
考えるより先に、思考が研ぎ澄まされる。
「関、よろしく!」
関へ背後からの援護を託す防御膜を打ち込み、私は激痛が走る左腕の固定器具を無視して一気に空を蹴った。驚異的な速度で鴨居先輩の左側へ追いつき、あえて先輩の右目の視界を完全に遮る位置へ右手と割り込む。
視界を奪われた一瞬の隙——先輩が戸惑い、動きが止まったその刹那。
私は迷わず鴨居先輩の襟首を痛む左手で掴み、力任せに後方へと放り投げた。
すれ違いざま、視界の先で敵の極太の光線が収束していくのが見えた。
目の前へ、持てる神力の全てを注ぎ込んで多層の極厚シールドを展開する。
間に合え……っ!!
ゴォアンッ……! と鼓膜を刺す爆音と激しい衝撃波が全身を襲う。シールドが激しく軋み、火花が散った。
「よし……! 間に合った……!」
「小早、お待たせ」
即座に追いついた関が私の背後を完璧にカバーし、敵の追撃を遮断してくれた。
「関、ありがとう。上手くいった」
「無茶しやがって……!」
「してないって」
「……自覚しろ、バカ」
「はいはい。その説教は後で聞くから」
「ちっ……それにしても……」
関が苦々しい視線を、空中に投げ出されて茫然としている鴨居先輩へと向けた。
私はシールドを維持したまま、息を整えて先輩へと視線を落とす。
「……鴨居先輩。運が良かったですね」
何も言い返せず、蒼白な顔で固まっている先輩を見つめ、私は淡々と事実だけを口にした。
「初めて実戦に出た者は、誰しも経験不足から重大な判断ミスを起こします。戦死した兵士の中で最も割合が高いのは、『初陣の兵士』です。……ですが、先輩は運が良かった。だから、死なずに済みました」
冷徹とも取れる私の言葉に、先輩は喉を鳴らし、「う、うん……」と掠れた声を絞り出すのが精一杯だった。
「反省会は基地に帰ってからにしましょう。……目の前の敵を、これ以上放置しておくわけにもいきませんし」
シールドの向こう側で、必死に弾丸を打ち込んでくる敵個体を見据える。
仲間を失った焦りからか、自暴自棄になった弾筋は大きく乱れていた。本来の精度であれば、今の攻撃でシールドごと抜かれていてもおかしくはない。
まあ、いい……。
いくら相手が弱かろうが、乱れていようが、目の前の脅威を排除することに変わりはない。こいつがただの雑魚であれ、やはり情報を集める『偵察機』であれ——容赦なく討ち取るだけだ。
私は痛む左腕をかばいながら刃を構え直し、冷や汗の流れる顔で不気味に揺れる敵を見据えた。




