偵察機
海の上を拠点にした戦いは、私たちにとってもあまり経験がない。記憶を辿れば、あの雪兎隊に派遣されていた時以来かもしれない。
GPSの座標を精査し、降下は二手に分かれる判断を下した。
「南野、最後に降りてきて。後半のために神力を温存しておいてほしいから。……関、夏純、いくよ」
合図とともに高度を下げ、目標地点の海上拠点へと降り立つ。全員無事に着地を完了し、前進を開始した。水面から反射する太陽の照り返しが、激しく目を刺す。
現場では、一足先に到着していた広島本部の部隊がすでに交戦に入っていた。戦況を見る限り、こちらが優勢のようだ。
「小早、左のやつ、いっていいか?」
「大丈夫です、お願いします」
関と夏純の鋭い連携もあり、難なく二体ほどを撃破したところで、無線から一時帰還命令が入った。まだ神力の消費的には何の問題もないはずなのに、なぜだ——疑問を抱きながら司令の言葉を聞く。
「片倉上等兵、南野一等兵、成瀬二等兵は負傷兵の救護に回れ。ただちにC地点へ移動してくれ」
なるほど、後方の救護班が不足しているのだ。そういう場合、現場では階級の低い民兵が真っ先に充てられることが多い。
「援護手が三人も抜けることになるが……王子中尉、防御は大丈夫か?」
「皆さんが必要以上に前へ飛び出さなければ、私が一人でカバーできます」
「なら頼む」
「了解しました」
南野、夏純、紫陽先輩が抜けたことで、陣形を関を中心としたコンパクトな構成へと即座に再構築する。
第一陣は右から【私、関、鴨居先輩】。第二陣は【菊名先輩、相原先輩】。
交錯する弾丸と斬撃の中、関と連携してさらに一体を撃破した。だが……手応えがあまりにも軽すぎる。違和感が膨らむ。
「……歩だけだな」
「関もそう思う?」
「『ふ』って?」
疑問を口にした鴨居先輩に、私は牽制の刃を放ちながら短く説明した。
「将棋の駒の『歩』ですよ。本来あいつらは、将棋の陣形のように最前線に弱い駒を配置してきます。この規模の戦いなら、普通ならそろそろ『銀』や『金』といった中盤の強い駒が出てくるはずなんです。なのに、それが一向に出てこないのはおかしい」
「つまり……どういうことだ?」
「予想以上の大軍……あるいは、いま戦っているこれは『戦闘部隊』ではない……?」
「どういうこと?」
「ずっとおかしいと思っていたんです。あいつらがこちらの地形を完全に把握しているかのように攻めてくるのも、配置が常に最適化されていたのも……もし『偵察機』のような個体が存在しているとしたら? 今回の戦いも、その偵察機の仕業なんじゃないでしょうか」
「だから、戦い慣れてない分、こんなにスムーズに撃破できるのか……」
関が納得したように呟く。
今回の作戦を担当している司令部は広島本部。通信の奥の気配で察がついた。
「今日の通信担当……立川の同期、梶本か」
彼が仕切っているなら話が早い。私は無線機を起動し、回線をつないだ。
「こちら福岡第二・明光隊、王子中尉。梶本中尉に代わって」
『……王子か。どうした?』
「梶本、あれ……ただの個体じゃなくて『偵察機』じゃない?」
『偵察機……?』
「ずっとおかしいと思ってたの。あいつらがどうしてこちらの情報をあそこまで知っているのか。それに今回、最初に一匹だけ飛行型が浮いていたのも不自然すぎる。あの一体を攻撃し始めた途端に、他の奴らが一斉に湧き出してきた……仲間を助けようとしたのか、あるいは状況を伝達したのか」
『あいつらに、そんな意思や心があるっていうのか?』
「さあね。でも、とにかく今回の連中は弱い。想定以上に敵の規模が大きいのか、それとも本当にただの弱小個体の集団なのかは分からないけれど……私のこの見立て、一意見として頭に入れておいて」
『……分かった。上がっておく。健闘を祈る』
「ありがとう」
通信を切り、私は痛む左腕の固定器具をもう一度強く踏みしめ、不気味なほど静かな海を見据えた。このスムーズすぎる戦いの裏に隠された「本隊」の影を感じながら。




