番外編:北九州デートのお土産
九州での凄惨な大規模侵攻任務からしばらくが過ぎ、立川基地の執筆室には、いつもの単調で静かな日常が戻っていた。
デスクに山積みになった報告書と格闘していると、部屋のドアがノックされ、宅配便のダンボールが一つ運び込まれてきた。品名欄には「コーヒー豆・和菓子・麺類」、そして差出人欄には見覚えのある二人の名前が並んでいる。
『関 悠斗 ・ 小早』
二人の連名で書かれた送り状(伝票)を目にした瞬間、隣で書類に目を通していた桜木が、ふっと口元を緩めた。
「おい中山、教え子たちから献上品だぞ。送り主の欄、見てみろよ」
「……言われなくても見えているさ」
俺は伝票の文字を指でなぞりながら、胸の奥がじんわりと暖かくなるのを覚えた。あの死線を潜り抜け、今はこうして二人が連名で荷物を送ってくる。その事実だけで、言葉以上の「報告」が痛いほど伝わってきた。
ダンボールを開けると、九州限定の厳選された焙煎コーヒー豆(わざわざ挽かれていない「豆のまま」の状態だ)と、がっつりとした和菓子の詰め合わせ、そして小倉名物の焼きうどんセットが整然と並べられていた。
「よく分かってんな。 甘党の中山には和菓子、俺にはこだわり豆ってか」
桜木は手慣れた手つきで愛用の手挽きミルを取り出し、袋から漆黒のコーヒー豆を掬い上げた。香ばしく深みのある良い香りが、部屋いっぱいに広がる。
ゴリ、ゴリ、ゴリ……。
ミリミリと音を立てて豆が砕けていく心地よい手応えを楽しみながら、桜木は思わず口元がニヤけてしまうのを隠せていなかった。
「なぁにニヤついてんだよ、桜木」
「……別にニヤついてなどいない」
「ウソつけ。顔が緩みっぱなしだぞ。『関と小早が仲良く北九州でデートして買ってきたんだな』って顔に書いてある」
俺は桜木の言葉を笑い飛ばしながら、さっそく和菓子の包装を破り、饅頭を一口で頬張った。疲れた身体に染み渡る極上の甘さに、俺自身の表情も自然と緩んでいく。
「お前だって、その和菓子の箱を抱えて嬉しそうにしているじゃないか」
「まあな。あいつらが前線の地獄を越えて、二人で並んで歩いて、こんな土産を選ぶ余裕ができたってのが何より救いだよ。……で? あの二人の関係、お前はどう見る?」
「どうもこうもないだろう。あいつら二人の固い結びつきは、あの戦場で嫌というほど見せつけられた。関が小早の手を離さず、小早が関に背中を預ける……もう誰にも割り込めないさ」
桜木がお湯を沸かし、ドリップフィルターに挽きたての粉をセットする。ゆっくりと円を描くように湯を注ぐと、豊かな泡とともに芳醇な香りが立ち上った。
「安宅の奴も、今頃空の上で『俺の見込んだ通りだ』って鼻高々に笑ってるだろうな」
「あぁ……間違いない」
出来上がった深煎りのコーヒーを桜木がマグカップに注ぎ、俺の饅頭の横に置いた。コーヒーの苦みと、和菓子の甘みが絶妙に調和する。
「……美味いな」
「だろ? あいつらの『無事』が詰まったコーヒーだ、不味いわけがねぇ」
二重の連名が書かれた送り状をもう一度見つめ、俺たちはどちらからともなく顔を見合わせ、満足そうにフッと笑い合った。
「早く立川に帰ってこい、元気な顔を見せにな」
遠い九州の空の下で寄り添っているであろう教え子たちの姿を思い浮かべながら、俺は温かいお茶(と和菓子)を、桜木は芳醇なコーヒーを、それぞれ静かに傾けた。




