番外編:北九州デート
九州での滞在期間中、たまの休日。
まだ完全に体力が戻りきっておらず、左腕を痛々しいギプスで固定したままの小早を連れて、少し観光をしていた。
前線での殺伐とした匂いから離れ、潮風が心地よく吹き抜ける港町。
「小早、腕大丈夫か? 人にぶつかられたりしてないか?」
「大丈夫だよ関、過保護すぎ。……それに、こうして手をつないでくれてるし」
そう言って小早は、右手をぎゅっと握り返してきた。
骨折している左腕を庇うように、俺は常に小早の左側に立ち、右手を握って歩く。少し歩くだけで小早の顔色がふっと白くなり、貧血気味の息遣いになるのを俺は見逃さなかった。
「よし、ちょっと休むぞ。あそこのベンチに座ろ」
「えっ、まだ歩けるよ?」
「だーめ。俺がお前とゆっくり話したいんだよ。ほら、座った座った」
半ば強引に赤レンガ造りの建物の前にあるベンチへ座らせ、近くの売店で温かい飲み物と、名物の甘い焼き菓子を買ってきた。
「はい、これ飲んで血行良くしろ。甘いものも食べていいぞ」
「ふふ、ありがとう。……関って、意外と甘党だよね」
「お前に食べさせるためだよ。……まぁ、俺も一口もらうけどな」
小早の隣に腰掛け、肩が触れ合う距離で並んで海を見つめる。
青い空と海、行き交う船。少し前まで雨と血の匂いに包まれて死線を潜り抜けていたなんて、嘘みたいな穏やかな時間が流れていた。
小早が一口かじった焼き菓子を、俺の口元に差し出してくる。
「はい、あーん」
「っ!? ……おい、外だぞ!?」
「えー、誰も見てないよ? 関、一口もらうって言ったじゃん」
悪戯っぽく笑う小早の顔に、照れくささが爆発しそうになる。だが、断る選択肢なんてあるはずもなく、俺は真っ赤になりながらその一口をかじり取った。
「……うまい」
「でしょ?」
幸せそうに目を細める小早の横顔を見つめながら、俺はそっと小早の肩を引き寄せ、頭を自分の肩に預けさせた。
「小早」
「ん?」
「こうやって……色んなところ行こうな。立川に帰ってからも、怪我が治ってからも。ずっと、一緒にな」
小早は一瞬驚いたように目を見開いたあと、俺の肩に額を預けて、嬉しそうに小さく頷いた。
「うん……約束ね、関。ずっと一緒だよ」
風が運ぶ潮の香りと、隣から伝わる温かな体温。
遠くで汽笛が鳴り響く中、俺たちはどちらからともなく寄り添い合い、ゆっくりと流れる恋人同士の時間を噛み締めていた。




